【エピローグB】 私の名前は?
◆ ◆ ◆
暗闇と孤独、そして弓と矢だけが世界の全てだった。
物心ついた時には既にココにいた。
いや、生まれる前からずっと暗闇にいた。
普段はなにもない暗い部屋で過ごすが、時折大人達に連れられては外に出た。
弓を構え目標の急所に狙いを定めると、矢を放つ。
矢が当たると目標は崩れ落ち、動かなくなる。
その瞬間、黒い何かが全身を駆け巡りとても嫌な気分になった。
そして暗い部屋に戻される。
その繰り返しの日々が続くうち、いつしか外に出る前後の記憶があやふやになる事が多くなっていった。
忘れたいから? 逃げ出したいから?
そんな私にも、唯一の楽しみがある。
部屋の隅にいる小さな生物を観察する事だった。
私と一緒で普段はずっと動かない。
しかし彼は、彼が作った世界を自由に歩いた。
ある晩、私は気付くと逃げるようにアジトに戻っていた。
すると大人の人達が私の体を殴り始めた。
私は矢を外したのだろうか?
そしてもう一度チャンスを与えて貰うことになった。
しかし私は、矢を外してしまった。
そのため暴力を受けた。いつまで経っても暴力が終わらない。延々と続く暴力で痛みと息苦しさに意識が遠退いていく。でも頭の片隅で違う考えが浮かんだ。これでもう嫌なことをしなくてもいいのかなと、安らぎにも似た感覚を感じ始めていた。
それから意識が朦朧とする中で大きな音がした。
突然鉄格子が歪み、1人の男が飛び込んできたのだ。
「あなたは!」
その男は私の事を知っているみたいだったけど、顔が見えないから誰かわからない。
黙っていると、男は地面に伏した私に近づき手を差しのべる。
「大丈夫ですか?」
男に抱き起こされ、壁にもたれ掛かるように座らせられる。
手当てをしてくれているようだ。
「私はバレヘル連合の者です。ココにいる犯罪者達は私達がみんな検挙します。あなたは……うーむ」
男は困っているようだ。そして私の顔に頭を近づけると、しばらくの間動きを止めた。
「あなたの目は澄んでいますね、……ここを出たら行く宛てはありますか?」
首を振る、ここ以外に私の居場所はないのだから。
「良ければ私達の所に来ませんか? 出て行きたくなれば、私は止めません。あなたは自由なのですから」
男の言っている事はあまり理解できなかったが『自由』という言葉だけは理解でき、自然と言葉が出ていた。
「自由、…………なにしても……いい?」
「はい、あなたはもう自由ですから」
「私は……自由」
言葉を喋ったのは久しぶりだった。
「隊長~、1人で突っ込まないで下さいよ」
「すみません、それより女の子を保護しました。毛布を持って来て貰ってもよろしいですか?」
隊長と呼ばれた男は後からきた男に命令すると、私のほうに向き直り優しく微笑みかけた、気がした。
「あなたの名前を教えて頂けますか?」
男は黙ったままの私にまた困っているようだが、答えようがない。
私には名前が無いからだ。
その時、ふと部屋の隅にいる生物がこの騒ぎで潰されていないか心配になり視線を彷徨わせる。
大丈夫だった。
その網目状の巣は、崩れた壁から差し込む月灯りでキラキラと輝いて見えた。
男はそんな私の視線に気づくと言った。
「あ、綺麗なーーの巣ですね」
よく聞き取れなかったので、男に聞いてみた。
「す、……なに?」
男はもう一度、同じ言葉を繰り返した。
その時初めてその生き物の名前を知った。
その小さな生き物の名は―――― 。
あの人に初めて逢った日、あの日から私はあの人が綺麗と言った生物の名前を名乗っている。
あの人は私に自由と家族、そして生きる理由を与えてくれた。
そしてあの人は、夢を見るのは人間である証だと教えてくれた。
そうだ、私は人だ。人でいていいんだ。
私はこれからずっと、人で在り続けたい。
あの人は私の全てだ。あの人のためになら、私はなんでも出来る。
スコッパーの皆様、誤字脱字の多い私の話をここまでお付き合い頂き誠にありがとうございます。
早く直せよと言われる方もいらっしゃると思いますが、修正するなら筆者がたくさんの作品を読んで表現力をアップしてからの方が良いのかなという事と、筆者自身頭の中の世界を文字という形にしていく事が楽しいため、物語の続きを書くことを優先することにしています。
こんな作品でありますが充電後再開しますので、良ければこれからもヨロヨロであります。
因みに第3章は「不死の魔女とゼルガルドの王子(仮)」となっております。
 




