【エピローグA】天才はそこに存在する!!
ドラゴンはその巨躯を動かせずにいたが、命はまだ繋ぎとめていた。呼吸と共に全身から血を噴き出しながらも、その真紅の瞳は光を失っていなかった。
そしてドラゴンはシグナの魔宝石に気づくと、『冥土の土産だ』と色々と語り出す。
自身の名がドブラリューゴである事と歴代のダークネスドラゴンの中で天才と同族から恐れられたこと。そして光輝王の竜に挑み、漆黒に染まっていた誇り高き体躯が剥がれ落ち今の無様な姿になってしまった事を。
そして最後に、シグナの魔宝石が特別な魔宝石である事を話すと『もっとよく見せておくれ』と言い、近づいたシグナを襲おうとする。しかし牙を剥いたところで心臓の鼓動が時間を刻む事を止め、眼がギラギラとシグナ達を睨むなかドラゴンは永遠にその動きを止めたのであった。
◆ ◆ ◆
次の日の晩、シグナとシャルルはホクイールの街の酒場にいた。
「そー言えばこの後はどうするの?」
月の魔竜教団壊滅後、シグナはパラディンから水晶を借り、カザンに報告を行っていた。
「カザンが明日にはこの街に着くそうだから、合流後に最南端の街、カイカイールまで南下していくそうだ。そしてその旅路の間も各町に寄って溜まっている様々な任務をこなしていくらしいよ」
「本当!? じゃ南の美味しい料理が食べられるね」
「そうなるな」
「ゴチになりやす」
「そうなる、か」
そしてシャルルが思い出したかのように手をポンと叩く。
「シグって可愛いよね」
「何の話だ?」
「月の魔竜もどきと話してた時、すんごい目を輝かせていたから」
やめてくれ、あの辺りはなかった事にしたいんだ。……と言うか、やっぱり気づかれてたのですね。
穴があったら入りたい。
「でもそのお陰で、ドラゴンを目の前にしてもそんなに恐怖を感じなかったんだよね」
「……結果オーライって事?」
「そんなとこ、かな」
ニシシと笑うシャルル。
「そうそう、話し75度くらい変わるんだけど、私の魔具に必殺技名を付けようと思うんだ」
「マジで! もしかしてあれか? バレヘルの兄ちゃんが言ってたのに触発されたな!」
「わ、私を彼氏が変われば服装も変える流されやすい女みたいに、いっ言わないでくれるかな」
「んで、候補とかあるの?」
「千年逸材攻撃」
「なんだかんだで千年は推すんだな」
「だめ?」
「ちょっと違うかな」
「そしたら掛け声系とかどう?」
「例えば?」
「地獄を味あわせてやる」
「悪の親玉か!」
「高笑いしながら操作する」
「それ、かなり恐いな」
「それなら今日のシグについて一言言うとか、どうかなー?」
「斬新すぎるけど、まず最初に俺がダメージを受けそうでそれも恐い」
「じゃなんか案だしてよ」
「突然ですね」
「待ったなしですよ」
「そうだな、……ジャグリン?」
笑いを必死に堪え、肩を叩いてくるシャルル。
あぁ、世の中の全ての名前が、数字か記号に変わってしまえば良いのに。
「からかってすまそん、実は最初から決めてたんだよねー」
心はズタボロだ。
静けさは心の傷に響く。
この心の静けさを破壊してくれるなら、もうなんでもいい。
「あぁ、それを聞かせてくれないか」
「妖精さん、ヨロシクね」
なっなんだと!
ここにきてエア妖精だと!?
妖精さんはとても恥ずかしがり屋だそうで、人前に姿を現す事は稀だ。そんな妖精さんを連れて旅をしているとなると、冒険者の憧れの的になること間違いなし。
そう、今の言葉をひとたび発すれば、相手はあたかも妖精さんがそこにいるのではと錯覚し、しかもなんか可愛い台詞なため発言者のシャルル本人も不思議系キャラと誤認させられてしまうと言う、奇跡のような言葉である。
シャルル、……こいつは天才だ。
シグナはおもむろに立ち上がるとフラフラと酒場の壁際へ流れ着き、酒場の窓を観音開きに開け放つ。
負けるなら完敗がいい。
シグナはどこか清々しい笑顔で、夜空を見上げていた。
今回、もう1つエピローグがあります。




