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走り抜ける戦慄

 登場したその男に、全ての影が振り返り視線を釘付けにする。

 そうであろう、召喚されていた人間が出てきたと言うことは、そこに他の召喚されている者達もいる可能性が非常に高い。影の本体達はドラゴンの後ろの何処かに身を潜めているのだ。

 赤髪の男はそんな事ぐらい分かっているはずなのに、平然とこの場に姿を現している。


「貴様ら、ただで死ねると思うなよ」


 そんな他の人間の事を微塵も気にかけない赤髪の男の視線は、完全にシグナとシャルルに向けられている。


「真実の理を理解できぬ愚か者共よ、万死を持ってその罪に懺悔するがよい!」


 ドラゴンに向き直る赤髪の男。


「さあ今こそ、その御力を!」


 赤髪の男の言葉を受け、今まで静観を決め込んでいたドラゴンがついに動き出す。

 前脚の片方を上げると指を一本だけ伸ばし、それを横に動かす。するとパキョッと音を鳴らし赤髪の男の首が横へ倒れた。そしてドサっと音を立て地面に身を落とす。

 それを目の当たりにしたこの場にいる者達は、完全に動きを止めるとドラゴンの次なる行動を固唾を飲んで見守る。

 そして笑い声が洞窟内に木霊した。

 ひとしきり笑ったドラゴンは、まだ余韻が残っているようでその大きな口元をにやつかせながら語り始める。


『ある日ここで休んでおると、教祖を名乗る虫けらが月の魔竜を探して迷い込んできた。最初は口の中で弄んだあと崖に吐き出してやろうかと思ったのじゃが、人語を話す竜なんぞに出会った事がないものだから、ワシがその月の魔竜だと言うと虫けらは簡単に信じこみよったんじゃ。バカよのぉう』


 ゲラゲラ笑うドラゴン。

 その時シャルルの視線を感じた気がしたが、そんな事はどうでも良い!

 くそっ騙しやがった! 教祖がどうなろうが本当にどうでもいいが、純粋な心をけがす行為だけは、あの女神様が許してもこのシグナが許さん! こいつにはそれ相応の死を与える!


『ワシは偏屈での、大概の竜は虫けらなんぞに興味を示さんもんなんじゃ。じゃがワシは虫けらが苦しむ姿が大好物での、面白そうじゃったから虫けら同士を戦わせて楽しんでおったのじゃ。まぁこのゴッコも飽きてきた事じゃし、頃合いを見て終いにするつもりじゃったんじゃがな』

「なんでそんな事をわざわざ言うの?」


 シャルルも怒っているようだ。


『それは決まっておろう。虫けらのその醜い本性、他者を妬む、怨む、嫌悪する表情をもっと見たいからよ』


 こいつ、言わせておけば!


「おい、人間に醜い部分があるのは否定しないが、自分ばっか棚に上げて、お前はどうなんだよ?」

『ワシか? グファッグファッグファッ、どうなんじゃろうのぅ~』


 うわっ、めっさムカつく。


『おっとそうじゃった』


 腰を上げたドラゴンが地を蹴り後ろに飛ぶと、その尻尾で後方の壁を叩きつけた。

 すると周りにいた影達が身をよじらせ霧へとかわっていく。本体が直接殺られたか。

 影で残ったのはガオウ達と交戦していた魔道士とパラディンのほうにいる魔道士の2人だけである。運良く助かったようだが。

 地面がドシドシ揺れる。ドラゴンは犬のような軽やかな足取りで先程の場所まで戻ってきた。


『それじゃお主達も、ただのトチ狂った竜の暇つぶしに付き合っておくれよ』


 ワイバーン並に細い体躯ではあるが、間近に立つドラゴンの大きさはその比ではなかった。

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