あとは頼んだ!
先程シグナを影ごと炎に包もうとし、おそらく初めにパラディン達にも同じ手で攻撃を行ったあの長髪の魔道士。
炎球系中等魔法を直接当てるのではなく、一度地面で炸裂させ対象を燃やそうとする嫌らしい戦いぶり、そして今他の魔道士達にパラディンを狙う様に手を使い指示を出しているあいつがいなくなれば、このあとの戦いがぐっと楽になるはず。
シグナは足を緩めると、剣を携えている影との戦いに入る。そして片手を横に広げ後ろについて来ているシャルルに静止を促し、背中越しに話しかける。
「シャルル、もう一度魔具での攻撃出来そうか?」
「どいつ?」
「ドラゴンの前にいる髪の長い魔道士だ」
「オッケー」
足を止めたシャルルの周りでプカプカ浮かんでいた黒球が、意思を持つ小鳥のように長髪の魔道士を目指し進んでいく。
すると魔道士の上空に光の筋が走った。その光は急降下を始めていた黒球に直撃し、もう1つの黒球も同じ様に光が襲った。光に弾かれた黒球は、勢いよく地面に落ちるとゴロゴロと転がる。
あれは弓使いが射った魔具の矢。ついにあいつが戦闘に参加してきた。
弓使いはその後もシャルルが複雑に動かす黒球を、何本も魔具の矢を放ち結局最後には撃ち落としていく。
「なんなのあいつ」
抗議の声をあげるシャルル、そろそろ体力の限界なのか肩で息をしだしている。
そこに長髪の魔道士が放った炎の塊が、例の如く地面に着弾し炎の風となりシャルルを襲う。シグナはバックステップで剣を交えていた影から距離をとったのち、風を解放し横へ加速するとシャルルの腰に手を伸ばし、抱きかかえた状態でその場から離れる。そのすぐ後ろを熱風が通り過ぎていった。
くそ、このままじゃ先にシグナの魔力が尽きかねない。ーーそうだ!
「シャルル、盾をドラゴンソードの上に」
「ほいさ?」
「飛ばすから黒球の盾に使うんだ」
「なるへそ」
盾の魔具がドラゴンソードの上に乗ったのを確認すると、長髪の魔道士へ向かい横薙ぎにフルスイングした。
一気に魔道士の近くまで飛んだ盾は、シャルルに制御され出しそこに黒球が吸い込まれていく。そして魔具一式が塊となって長髪魔道士を目指す。シャルルのコントロールの下、弓使いから放たれた光を避けるように進む盾であったが、何度目かの直撃を受けてしまい地面に落ちそうになる。
そして地面に接触する寸前、2つの影が飛び出した。その2つの影は地面スレスレを走ると長髪魔道士の脚と顔面、それぞれにめり込んだ。その後も竜巻のように動きで黒球が攻撃を加えていくと、長髪魔道士が霧へと変わっていく。
「シグ、ちょっとこれ以上は無理かも」
「よくやった、少し後ろで休んでいてくれ」
シグナはへとへとに疲れているシャルルに声を掛けると、その後影と何度か剣を交えたのち危なげなく倒す。
よし、次は詠唱ありの風魔法で斬り込んで、内から一気に片をつけるぞ。
その時、再度弓使いがおかしな動きを見せる。お腹を押さえてその場に膝を着いたかと思うと、顔を勢いよく右へ向けその方向に倒れこむ。それから何度か転がっては止まり転がっては止まりを続け、最後にはピクリとも動かなくなった。そして霧へと消えていく。
その光景に呆然としていると、影ではない生身、赤い長髪を携えた一人の男が、顔に手を当て片足を引きずりながらドラゴンの後方から現れた。




