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くらえ、俺の必殺技!

 身体中の血液が凍る気がした。

 時の流れがゆっくりになった気がした。


 影の剣がシャルルの脇腹に迫る中、シャルルの近くを浮遊していた盾がそれを受け止めようと間に割り込む。ほぼ同時に、盾に吸い込まれるようにして黒球も戻ってくる。そしてその黒球を収めるために盾は迫る剣の正面を向いたまま微妙に横回転をして受け止めていく、ーーそして。


 ギィイーン


 盾が影の横薙ぎを正確に受け止め、少し押し込まれはしたがシャルルのすぐそばで止まっていた。


「カランッ」


 影が両手剣を落とす音が鳴った。

 そして横薙ぎを繰り出していた影はシャルルの斬撃により胸部から肩口を斬り裂かれ、重力でその身を前に倒していきながら羽織っていた服をその場に残し霧となって消えた。


 風を解放しシャルルに向かっていたシグナは、彼女の隣で急ブレーキをかけ止まると、火がついたままであったコートを脱ぎ捨てた。

 シグナの顔を見たシャルルは一度大きく息を吐くと、表情を緩ませ早口でまくし立てる。


「死ぬかと思った、心臓が止まるかと思った」

「怪我は、ないか?」

「うん、ただぶっつけ本番になっちゃった」


 盾で受け止める際、黒球も同時に扱うことによって盾を押し出す力を向上させたのか。

 しかし、本当に無事でよかった。


 そして炎を消し終わっていた影を2人がかりで倒したシグナ達は、ドラゴン付近の魔道士達に向かう。

 あの厄介そうな弓使いはまだその場から動いていない。と言うか、まるで戦場でバニックに陥ってしまった兵士のようにその場で棒立ちになってしまっているようだ。

 その時、何か様子が変だと視界に捉えていた弓使いが、突然その場に手を付いたかと思ったら俯せに倒れこんだ。

 何が起きた?

 暫らくすると弓使いは四つん這いになり、呼吸を整えるように肩を上下させ出した。

 よく分からないがあいつが動かないのであれば、それに越したことはない。

 走っているとドラゴンを挟んだ反対側から爆音が鳴り響く。ドラゴンに単独で接近していたパラディンが、その目立つ格好のためか魔道士達の集中攻撃を浴びていた。


「食らえ、牙王八連斬り」


 パラディンから少し離れ剣を持つ影と対峙していたガオウが、人目もはばからず必殺技名を叫んでいた。

 右手に握られた片手剣の一太刀一太刀が強攻撃のようで、しかも流れるような連撃が続く。威力からして、恐らくこの間息をしていないのであろう。魔力が満ちていない影を完全に圧倒し、その8連が終わるころには影は霧へと変わっていった。

 しかし結構いい大人の人が恥ずかしいことを言うもんだ。


「つ、疲れたぜ」


 そう言って肩で息をしているガオウ。凄まじい連続攻撃ではあったが、その後の隙と、何より最初に8回攻撃する事を相手にわざわざ教えるのは頂けない。

 あっ、その隙を突かれて放たれた火炎放射の魔法を、ジリウスとか言う中年の傭兵にタックル食らって助けられている。

 しかしあの火炎放射の魔法は戦士にとっては厄介である。術者の手の平で燃え続ける炎は、腕を伸ばすと正面に炎を噴き出す。その間合いは槍と同等まで伸び、またこの炎は簡単に対象を炎に包んでしまう。解除するか魔力が尽きるまで手の平から消えないこの炎は、魔道士の近接魔法の代表的な1つであり、遠距離攻撃手段を持たない戦士にとっては下手な戦士よりも手強い相手である。

 シャルルの黒球で援護してあげたいが、今はそれよりあいつを狙わねば。

 シグナ達が向かう先におり剣士に守られるようにして立つ、ここからでは男なのか女なのか分からないあの髪の長い魔道士を。

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