駆け引き
「カシャカシャン」
シャルルの黒球が盾へと収納される。
よし、両手剣の2人と剣を交える前に戻って来た。
「ゴフォーン」
魔法が炸裂する衝撃音が、先程からパラディン達の方から聞こえ出している。
それでもバレヘル連合の三人はドラゴンの手前に陣取る影達へジリジリと迫っているが。そしてそこから分離する形でパラディンが一人飛び出した。
狙いを分散させたか。
剣を受け取った影達はパラディン達を迎え討つためドラゴンの前に集結していっている。あの弓使いは幸いなことに、一歩も動かずドラゴンと同じく傍観しているようだが。
敵は魔道士10人に剣士がこちらに向かう2人とパラディン達の方に4人、それに弓使いとドラゴンか。
シャルルは前方に盾を飛ばすと黒球2つを展開し、剣を構え迎撃態勢に入る。
このシャルルの盾、もしかした魔法を受け止める、もしくは軌道を逸らすぐらいは出来るのかもしれないが、昨晩実証したように武器での直接攻撃を防ぐ力はない。その事もあり念には念を入れ、シグナはいつでも助けに入れる位置で戦わなければならない。
そして両手剣の2人がその剣を引きずるような形で走り込んできた。
シグナはシャルルの前方に飛び出ると、その1人が振り上げる剣に殴打面で力一杯振り下ろした。
弾け合う両者の剣。
試しに初撃は剣を激突させてみたが、この反動は相手も魔力を消費している状態である。そして近くで確認すると、やはりこの2人も影であった。
そうか、召喚体として呼ばれた者達には肉体がない。つまり魔力を使った者と同等かそれ以下の力しかないのかもしれない。これならシャルルでもなんとかなるか?
とにかく早く目の前の影を早く倒して、シャルルを加勢しなければ。
何度か剣を交えていくと、影は防ぐので手一杯になっていった。
その時、周囲が段々と明るさを増していく。遠くの影から放たれた火の塊がシグナに迫って来ていたのだ。
シグナはこれを上体を反らすのみで躱すと、後方で壁に激突した火の塊が爆音と共に炎をあげた。その隙を狙ってきた影の横薙ぎを殴打面で受け止める。
「ガキン」
シャルルと影の剣が交わる音が鳴った。
そしてすぐさまシャルルは影との間合いを大きくとり、代わりに黒球を影に向かい飛ばす。
よし、剣はあくまで防御に徹して扱い、また間合いを取るようにして立ち回れば危険はグッと下がるだろう。
しかしあの影、多角的に迫るシャルルの黒球をその剣を巧みに扱い、時には防ぎ、時には躱していっている。シャルルのほうの影、かなり出来る。
早くこちらの影を倒さねば!
先程から押していると言うのに。
そう言えばこちらの影、最初の一太刀以外、そのほとんどが防御を中心とした立ち回りをしているような……。
くそっ、こいつは時間稼ぎか!
そしてシャルルに向かい拳程の炎の球が断続的に降り注ぎ始める。それを横に移動して避けていくシャルル。そこに黒球の相手をしていた影が間合いを詰めだした。
不味い!
焦る中、相手をしている影が一歩踏み込んで来た。この構えでの踏み込みは、先程と同じ横薙ぎのモーションが来る!
予想通りに影が剣を振り始める中、こちらも踏み込むと同時に風を発動させ交差させるように強力な横薙ぎで影の剣を無理やり弾く。そしてもう片方の足に風を纏いシャルルのほうへ移動しようとした時、後方へよろめく影の後ろから火の塊が迫っているのが見えた。
その火の塊は手前の地面に着弾すると炎の風となり、影もろともシグナを襲う。
咄嗟にそれをコートの端を掴み身体を覆うようにして防ぐと熱気に包まれた風が通り過ぎて行く。
防ぐ手段がなかった影は、全身を包む炎を消すために地面を転がり始めた。
シグナのコートにも所々火が付いているが、脱ぐ時間が惜しい。
シャルルを見れば火の玉は全て避けていたが、両手剣の影に接近を許し剣で応戦している。
シグナは再度風を纏うと、シャルルに向かい一歩を踏み出した。
とその時、シャルルが相手の隙をついて跳ねあげるようにして影の胸元に剣を振った。
いや、それは駄目だ!
わざと隙を見せた影は、それを防ぐ素振りを一切見せず、同士討ち覚悟の横薙ぎをシャルルに向かい繰り出した。




