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召喚されし者達

 そして影達は各々呪文を完成させていく。

 手の平上に頭程の大きな火の塊を作る者、自身の頭上に小さな火の玉を無数に作る者、練り上げた雷魔法のため腕が放電を起こしている者、両腕に各々風の魔法を纏わせる者。


 シグナはシャルルを抱きかかえると1人だけ離れている、両腕に風を纏わせている影に迫った。

 影は慌てて腕をクロスさせると風魔法、風双剣高等魔法エアドツイソークロスをシグナ達に向かい放つ。二つの風が交差するように形どる風の刃が、砂塵を巻き上げ一直線に距離を縮めて来た。

 この呪文は風魔法の中ではトップクラスの攻撃力を持つ鎌鼬系魔法ではあるが、対人戦にはあまり向かない。鈍足覚悟で重装備をしている者以外は、発動を見てから躱すことの出来る魔法であるからだ。ドラゴンや魔獣など比較的体の大きな対象に効果を発揮する威力重視の魔法と言えよう。

 シグナはなんなくステップを踏んでこれを躱すと影の懐に潜り込む。影は咄嗟に拳をこちらに突き出したが何も起こらない。普段の状態では何らかの魔具を装備しているのだろうが、今は防具すらつけていない生身と同じ状態。シグナの斬撃面での一撃で胴体を切り離されると、影は苦悶の表情を浮かべ霧のように霧散していった。


 その時目の端で、炎の塊がパラディン達に迫っているのが見える。そしてその塊はパラディン達の手前で地面に着弾すると炎の風となりパラディン達を包んだ。パラディン達は密集陣形を組んでおり、各人が突き出した盾を地面に突き立て上部を手前に引き角度を付けると、協力して作った小さな壁でその炎の風をやり過ごしている。

 炎の風が通り過ぎると、盾の後ろにいるガオウがこちらに親指を立てているのが見える。


 やれやれ、要らぬ心配だったか。


 影達に視線を配れば続々と影達の魔法が完成されていくのが見えるが、やはり一番に注意すべきは召喚魔法が全て終わったのか、こちらをその真紅の瞳でただ見据えているだけで今後どう動くのか予想が出来ないドラゴンと、最初に雷の魔法を完成させ発動させるタイミングをじっと待っている影である。現在の最優先で狙うべき相手は、発動してしまえば高速である雷魔法を飛ばす事が出来る影が一番であるが。

 しかしあの影はドラゴンの手前に陣取っている。あそこに斬り込み上手く倒したとしても、周りの影達とドラゴンに袋叩きにあってしまうだろう。しかしあいつをどうにかしなければ、ーーそうだ!


「シャルル、ドラゴンの手前で腕に雷を纏っている奴を攻撃できないか?」

「あいつね」


 シャルルは一瞬でこちらの言いたい事を理解すると、すぐに行動に移した。盾から勢いよく射出された2つの黒球が影へと突き進む。黒球は前に出て来ていた両手剣を持つ2人と複数の影の頭上を越えて進むと、雷魔法の影に向かい急降下を始める。

 焦ったのであろう。影は完成させていた雷魔法を黒球の1つに向かい放つが、シャルルが的を絞らせないように操作する黒球に当てることが出来ず、あさっての方向に走った光の筋が音を立て洞窟の天井を傷つけた。そして為す術が無くなった影は、シャルルの黒球による連続攻撃によりあっさりと霧へと変わっていく。

 すると両手剣を持つフード姿の2人が、迷いもなくこちらに向かい駆け出した。


「黒球を戻すんだ!」


 恐らくこの両手剣を持つ2人、最初の咆哮で反応がなかった事もあり影のような気がする。あらかじめ召喚していた影に剣を持たせているのだ。

 この勘が当たっていると、1つの良くない要素が増えてしまう。それは相手が平気で捨て身の攻撃を行ってくるということだ。生身でそんな事をすれば命に関わるためよっぽどのこと、追い詰められなければそんな決断は出来ないが、召喚として魔力体でいるならば例え首を斬り飛ばされても意識が肉体に戻り目に見えない痛みが暫くの間続くのみで、肉体のほうは無傷で命を失ったりしないはずである。

 そんな捨て身の剣士を相手にする事は、いくらシャルルでも苦戦を強いられるはず。例えそうであったとしても生き残るために、黒球は戻しておくべきである。

 そしてふと、ドラゴンの近くにいくつもの武器を抱えヨタヨタ歩いている影を見つける。その影はドラゴンの近くまで行くと、その数本の剣と弓を地べたにばら撒いた。すると影達がそれを拾い上げていく。

 もしかして、元々魔道士ではない影が混じっていたのか?

 そしてあの弓とグローブを身に付けて矢を持たない影は奴、先導者か!

  あの先導者は先にアジトへ戻っており、召喚体としてここにいたのだ。

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