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魔弾の射手

 先導者がこちらを一瞥した。と同時に、その口元がまるで裂けたかのような笑みを見せた気がした。

 そして光の矢を手に先導者が今まで間合いを詰められないようにしていたのを急に止めると、パラディンに向かい掛け出しその距離を縮めていく。


 弓には光の矢がつがえられ、目を眇め近距離から矢を放つ体勢に入った。

 そして弓につがえられている矢の数が4本に増える。各指の間にあるその光の筋は扇状に広がっておりそこから同時に放たれる4本の光。

 その軌道は螺旋を描きながらパラディンに突き進む。

 パラディンは盾を構え視線を確保したうえで胴体を守った。そこへ光の矢がほぼ同時に襲い掛かかってきた。それ等を盾で防ぐもそのうちの一本がパラディンの太ももに突き刺さり、そしてパラディンの視界が布で覆われた。

 先導者が身に着けていた服を剥ぎ取り、パラディンの視界を塞ぐために投げつけたのだ。

 先導者を完全に見失ってしまったパラディンは、鋭い殺気に気づき咄嗟に盾を首元に移動させる。


「ギギィィ」


 盾に衝撃と共に金属を削る音が鳴った。

 パラディンの脇を抜ける先導者は舌打ちをすると隠し持っていたナイフを持ったまま走り続ける。

 逃走をする気か?

 魔力を消費した状態でシグナや、魔力が満ちているバレヘルの連中から逃げられるわけがない。

 その行動は完全に判断ミスだ、と思った。

 上半身裸で下着姿の先導者は、走りながら手にしているナイフを内またにある鞘に納めると、弓を首から通し体に固定させる。そして一直線に木々の間を走って行っているが、後方のバレヘル連合の2人との距離はどんどんと縮まっていく。

 そこで先導者は前方に飛んだ。

 飛んだ先導者の姿は盛り上がった地面が邪魔をして見えなくなり、その起伏部分に達したバレヘル連合の2人はそこで足を止めた。


「ドボーン」


 続けて聞こえる前方から水の音、もしかして!

 シグナ達もそこまで行くと、盛り上がった斜面の先が崖になっており下に川が流れているのが見えた。先導者の姿はもう見えない。

 逃げられてしまったのだ。


「隊長、大丈夫ですか?」

「えぇ、ただ私が不甲斐ないばかりにすみません」


 パラディンは傷を負ったほうの脚をガオウに動かせてみせると、頭を下げ謝った。

 そんなバレヘル連合の3人から距離をとっていると、シャルルが顔を覗かせる。


「さっきは、ごめんなさい」


 シャルルの目線がシグナの腕に注がれる。


「気にするな、これは俺が巻いた種なんだ」


 判断を迷った。

 先ほどの賊の矢、いつものように剣で落とそうとして、それを今の隻眼であるシグナが出来るかどうかを。

 そして確実ではないその行動を止め、急遽突き飛ばすことにしたのだ。

 誰がなんと言おうが、あれはシグナの完全なミスなのである。


 しかしシャルルには悪い事をした。傷を負ってしまったばっかりに、彼女は自分のせいだと思い込んでいるはず。そしていつものシャルルを知っているから、いま酷く取り乱しているのがわかる。

 これはシグナがカザンに任された事に対して必要以上に過敏になりすぎ、シャルルにも必要以上のプレッシャーを与えていたからかもしれない。


 はぁー、先輩失格だな。

 ……でも、ここで終わらなければ、失敗が失敗ではなくなる。今までの失敗が成功にたどり着くための、必要なものへと変わる、いや変えるのだ。


 両手をシャルルの両肩に置き、見上げるシャルルに微笑みかける。


「すまない、やり直させてくれ」

「えっ?」


 カザンが今のシャルルを見たならば、きっとこうするはずだ。

 シグナはシャルルの頭の上に無造作に手を置くと、ゴシゴシゴシと少し手荒に撫でて見せた。

 女の子なので『少しだけ』手荒に。

 こういう配慮は必要だと思います。

 そして腹の底から盛大に笑う。


「はっはっはっ、心配するな。こんなもの唾つけときゃどうにかなるもんだ」


 シャルルは直立不動のまま呆然としている。

 あれ、はずしちゃったかな?

 ……そりゃそうか、いきなりこんな事言われてもビックリするだけだったのかも。

 いや、冷静に状況分析している場合ではない、早く次の、なにか気の効いた言葉を探さないと。

 えーと、えーと。


「シグ?」


 シャルルが下から心配そうに覗き込んでいる。心が痛くなるのであまり見ないで。


 そこでどこからともなくため息が聞こえた。続けて「やれやれ」とも。

 そして後方から腕を掴まれ、押されるようにして強引に下へと持っていかれる。

 すると手にしっとりと吸いつく、そして身が詰まった感じではあるが、思わず声に出してしまう感触がそこにあった。


「柔らかい」


 言って正気に戻り、急いで手をどける。

 目の前のお尻を触られたシャルルは、みるみるうちに顔が赤くなっていき、そして涙ぐんでいく。


「いや、これは」


 シグナの腕を掴んでいたガオウを見れば、どや顔で親指を立ていた。

 これは不味い! なんて事をしてくれたのだ。この行動の意味がわからない。

 そんな事よりこの状況をどう収めれば良いと言うのだ。試行錯誤してみるが、手に残っている先ほどの感触が邪魔をして頭の中が堂々巡りをしている。

 そして口から出る言葉。


「違うんだ、柔らかかったけど、違うんだ」

「シグー!」


 はい、パチンと頬っぺたを叩かれました。


 そして力が抜けたのであろう、シャルルはその場にしゃがみ込みそうになったので、脇に手を伸ばし支える。

 これは大丈夫、ですよね?

 シャルルはまだ潤んでいる瞳でシグナを見上げると、沈黙ののち「守ってくれてありがと」と小声で言った。

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