幼き先導者
山に脚を踏み入れ道なき道を2時間と少し進んだ一行は、現在なだらかな起伏があり樹木がまばらに生えている疎林を縦列に進んでいる。隠密行動中のため松明に炎は灯していない。
「皆さん」
先頭を行くパラディンが、片手を横に大きく広げ静止を促す。
耳をすませば男達の叫び声が聞こえて来た。
パラディンの所まで行くと、木々の間から男達が松明片手に走っているのが見えた。
その数は松明を手にしていない者も含めるとざっと30人はくだらなさそうである。
そして目を凝らしその炎が進む先を注視すると、一つの影が集団から逃げるように移動しているのを見つける。話の通りだとこいつは月の魔竜教団の奴になる。
さて、パラディンはどう動く?
「進行方向が我々と同じのようですね。このまま行けば、敵の根城と思わしき場所で待機しているウチのメンバーと鉢合わせになる可能性が出てきます。そうなると根城から出てきた者達も合わさり戦場が混乱してしまうでしょう。そこでここは先導者も含めて、彼らを倒しましょう」
ガオウが確認の声を上げる。
「隊長、先導者の生死は?」
「問いません、ただし気絶程度で済ませられるのであれば、それでお願いします」
「了解」
鼻歌交じりで剣と盾を握るガオウ。パラディンとジリウスも剣と盾を手にした。
「シャルル、相手を殺すのは躊躇するなよ」
シャルルは返事をしなかったが、代わりにゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。
シグナ達は夜中の林を先導者達と併走するように駆け、結果木々を避けこちらに向かう形になったその先導者の前に出る事に成功する。
脚を止める木々の後ろに身を隠すと、盾を正面に構えるバレヘル連合の面々。
シグナはシャルルの前に立つと、視線は前を向けたままでシャルルに話しかける。
「シャルル、俺から離れるな」
「うん」
先導者がこちらに気づいたようだ。しかし脚は止めない。走りながら弓に矢をつがえると、ジャンプをしながら矢を放つ。そして着地と同時に木々の間に飛び込むようにして横へ再度ジャンプした。
暗闇の中風切り音を立て迫るその矢をパラディンは盾で弾き、ジリウスに「後は任せます」と一言伝えると、先導者の後を追い茂みに飛び込んだ。
今の先導者、かなり若いように見えた。そして薄汚れた膝まである長めのシャツを身につけていたが、そこから出ていた手足がかなり細い。
「くそっ、待ち伏せか!」
「殺っちまえ!」
先導者の後から遅れて駆けてきた盗賊達が、シグナ達を先導者の仲間と勘違いしたのであろう、勢いそのまま襲いかかってきた。
「ドガガッ」
シグナ達の前に陣取ったバレヘル連合の2人が、2人の盗賊の攻撃を各々のその盾で受け止めた。
そして盗賊の1人の手首を斬り飛ばしながら、ジリウスが叫ぶ。
「俺達は斬り込む、魔竜殺し達は隊長のほうへ賊がいかないようにしてくれ」
「わかった、シャルル行くぞ」
シグナ達はバレヘル連合の2人の後ろ姿を視界に捉えながら、盗賊達からパラディンと先導者が飛び込んだ付近を遮る位置を目指して移動を開始する。
「くたばれ!」
「どぉりゃー」
バレヘル連合の2人の方から盗賊達のがなり声が上がる。
目を向ければ、バレヘル連合の2人に盗賊の一団が迫っていた。2人は立ち位置を変えたり、時には前方へ駆け出し敵との間合いを詰めたりまた離れたりと、この状況で2対1と言う数的有利な状況を作り、確実に敵の1人1人を倒していく。
パラディン達のほうに目を向ければ、2人はギリギリ視界に入るあたりで対峙していた。
「シグ!」
「あぁ」
そしてこちらにも、賊の何人かがなだれ込んで来ていた。




