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本屋さんに寄ってみよう

 街を歩く2人。


「びっくりしたー、シグが変な事言うからびっくりしたー」

「誘導したのは誰だよ」

「おっ、あそこに本屋さんがあるよ。そう言えばいつか本好きっていってたよね? 寄ってく?」

「あぁ」


 お店の中に入ると、比較的新しそうな物からいつの時代に刷られたか分からないボロボロの物まで、店内にいくつも設置されている棚に上から下までびっしりと様々な本が置かれていた。


 本を読むのは好きだ。子供の頃と違って、本を買うお金もある。

 しかし移動の邪魔になるので購入は控え、王都に戻った時に図書館で借りた本を読むにとどめてきた。そのため今まで立ち寄った町で本屋に足を運ぶ事はなかったのだが、なんかこうして眺めているだけでも小さい頃を思い出して楽しい気分になる。


 本はそのジャンルごとに分けられて置かれているのだが、戻し間違えたのか他の種類のものが混じっていることがある。

 子供の頃の話だが、図書館に入るお金もなくただ眺めるだけに通っていた本屋さんで、その様なはぐれてしまっている本を見つけると在るべき場所に戻す事をよくしていた。するとお店の人に気に入られ、店の隅でただ読みさせて貰うようになっていた。


 しかしこうして見ていると、王立図書館にある本がその全てではない事がよく分かる。棚に並ぶ物は、見た事のないタイトルばかりだ。

 なにか掘り出し物がないか探してみようかな?


「シャルル、少しここで本を見ていてもいいかな?」

「オッケー、じゃ私はもう少し街の探索をしてくるね」


 シャルルは手を小さく振りお店を後にした。


 さて、やはり見るなら冒険物だよな。

 今でこそ色々なジャンルの物を読んではいるが、昔はひたすら冒険物を読んでいた。

 そして昔から変わらず今も、嘘か本当かわからない冒険物が大好物である。


 パラパラと何冊か目を通し次の本はどれにしようか選んでいると、1つの本が目に止まった。

 タイトルは『女神と月の魔竜』。

 子供の頃に何度も読んだ事のある神話の本だ。

 当時はこの話に出てくる、月の魔竜が山より大きいという話を読んでビックリしたし、女神が遣わした五人の使徒の1人がドラゴンで、そのドラゴンがあの『光輝王の竜シャイニングロードドラゴン』であるという話を信じて疑わなかった。

 実際にはそんな大きなドラゴンはこの地上に存在しないし、光輝王の竜は今もいるわけで、いくらドラゴンが長寿であると言ってもそんな神話の時代に生きていたドラゴンが今もいるわけがない。


 しかしあれは綺麗だった。

 カザンと任務でレギザイール王国の北東に位置する連合諸国群に向かう途中、ザザード砂漠を迂回しながら東に進んでいると、一本の光の筋が青空に出来ていた。

 カザンも目にするのは二度目らしく、滅多にお目にかかれる物ではないらしい。

 話ではその光輝く姿から零れ落ちた光の雫が、いっときの間だけ空に残るらしい。そしてあの光はシャイニンの縄張りを示すマーキングのようなものでもあり、あれを目にした動物達は恐怖のあまり縮こまってしまうらしい。

 この光の筋が今までに確認された場所は、ザザード砂漠周辺。それと砂漠の北に位置する人の権力の及ばなくなる場所、ゴブリンやオーク、そして妖精達を人間から隔てるようにして大陸を横断しそびえる『別れの山脈』である。

 そして目撃されるのはいつも一匹だけであるがため、別れの山脈の先にこのドラゴン達が住む場所があり何らかの理由で群れから孤立してしまった一匹が迷い込んだのではと言う考えが主流となっている。


 またおとぎ話の1つには、シャイニンにまつわる話もある。

 絶対的な力で他国を圧倒していたある国の王様は、シャイニンを討伐しさらなる力を誇示しようとするが、率いる軍隊の殆どを犠牲にしてもろくに傷を負わす事が出来きず逃げ帰る。

 そして逃げ帰った王様は周辺所国にシャイニンの討伐命令を下すが、他の王様達は弱くなった王様の言う事を聞かなくなり、逆にその王様抜きで話し合いを行なった。

 そして話し合いの結果、こちらから仕掛けない限りシャイニンは何もしないため、他の王様達はシャイニンと弱くなった王様をそれからずっと無視するようになった、と言うものである。


 また今でも、その当時の各国の話し合いが生きており、あれを魔竜とは認定せず決して手を出してはいけないもの、として考えを共有していたりもする。


 気付けばもうこんな時間か。

 昼前に入った本屋であったが、外はすでに夕暮れ色に染まっている。

 そういえばシャルルはどうしたのかな? こんな時間だし、先に宿に戻っている、だろうか。


 外に出ると夕日がシグナの影を伸ばす。


 そしてその影の先に、シャルルいた。

 シグナに気がつくと、手にして見ていたお店の物を戻して「お疲れー」と声をあげる。


「もしかしてずっと待ってたのか?」

「いやー、なんかすんごく楽しそうにしていたから、邪魔したら悪いかなーと思って」


 気を使ってくれてたのか。


「ごめんな、……今からメシにするか?」

「それならこの先に小洒落たレストランがあったんだけど、そこにしない?」

「あぁ、それとそこの代金は俺に払わせてくれ」

「えっいいよー、ーーもしかして気にしてる?」

「そういう気分なんだよ」

「そかっ、じゃゴチになりやすね」


 シャルルは空気が読める、気が利く子である。

 ……思い返すと、いつも気を使わせてばかりな気がしてきた。

 これからはちゃんと、シャルルの事も考えないとな。

 反省。

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