山狩り?
一行は温泉を目指し、続く山道を松明の明かりで道を照らしさらに奥へと進む。
と言うか、こんな山奥に本当に温泉なんてあるのか?
「ミケ、誰から温泉の情報を聞いたんだ?」
「城下町にある武器屋のマイケル、いちおさっきの宿屋でも確認したから、まず間違いないよ~」
先程の門兵も知っている感じだったし、間違いないか。
それよりミケの肌は透き通る白さだが、これは日頃から気にしてあれやこれや努力している賜物なんだろうな。
そんな事を考えながら歩いていると、不意にシャルルから体当たりを受けてしまった。
「シグ」
「ん?」
「温泉入っている時に覗いたら、軽蔑の眼差しを差し上げるからね」
「なんかニュアンス的に、見れば褒美が貰えるって感じじゃないか?」
「左様、喜んで軽蔑して差し上げようぞ」
「なんだそれ?」
思わず吹き出す2人。
さっきからどこか大人しかった、元気がなかったシャルルが、いつものシャルルに戻った気がした。
ちっ
ん? いまミケさん、舌打ちしました?
ミケに注目していると、唐突に踵を返しこちらを向いたため心臓が飛び出そうになる。そしてミケはこちらにツカツカ来たかと思うと、シグナから距離を離すようにしてシャルルに抱きついた。
「しゃるるん、私にも幸せを分けてくれ~」
「幸せになりたい? 道は険しいぞ、それでも良いのか?」
「それで幸せになれるのなら」
「ならばまずは、不幸とは何かをその身に刻むところから始めようか」
シャルルがミケの脇に腕を伸ばし、くすぐり始める。
「ぎゃ~、松明持っているし! これはまじムリムリ」
「素直ではないのー、本当はこれを欲してっぷ、ちょっ、ミケさん、それは反則」
「死なばもろとっキャハハハハッ」
松明を捨て、応戦するミケ。
何やってんだか。
ん?
……音がする。
……人の叫び声か!
「2人とも、静かに」
シグナの声に絡み合っていた2人は動きを止めると聞き耳を立てる。
するとおもむろに歩き出すミケ。そして道から外れ、草むらの中を走り出した。
「ちょっ、どうしたんだ!?」
声を出来るだけ張らないように叫ぶと、ミケは同じくかすれた声で返答した。
「こっちよ!」
月明かりを頼りにミケに続き駆けていくと、先行するミケが足を止め草むらの上に這いつくばった。
シグナ達もそこまで行くとその先が崖である事が分かり、ミケと同じように地面に伏し眼下に広がる森を見下ろした。
いくつか森の中を炎が動いているのが分かる、松明か。
そしてその松明は、全て同じ方向へと進んでおり何やら叫んでいるようだ。
「あそこ!」
ミケが差し示した箇所は、沢山の炎が進む先ではあるが何もない。
……いや、何かが動いている?
進む炎と同じ方向に進む、ここからは影としか見えない何かが、炎から逃げる様に森の中をジグザグに移動している。
追い剥ぎの類か?
もしくは盗賊同士の縄張り争いの一場面なのだろうか?
とにかくここからは遠すぎる。
シグナ1人ならあそこに行く事は出来るが、それには危険が付きまとってしまう。
そしてここは町から離れすぎている。シグナ達もいつ巻き込まれるか分からない以上、シャルル達を置いていくわけにはいかない。
それにしても、ミケはよくあれを瞬時に発見出来たものだ。
遠ざかる炎を背に、温泉に浸かるのを取りやめたシグナ達は、ホクの町に戻る事を決めるのであった。
 




