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目指せ、温泉!

 どこか仁王立ちのミケ。


 まさか、こうも堂々と正面から現れるとは。

 しかしまだだ、まだ心の準備が出来ていない。


 チラッとミケに視線を配ると、顔は笑っているが目はまったく笑っていない。

 恐いです。


「よっ、しゃ~るるん。ウチの魔具の調子はどうだった?」

「良い感じだったよ」


 ミケは腕をシャルルの背中に回すと、抱き寄せながらバンバン叩き頭を撫でる。

 そして両肩に手をのせると、腕を伸ばした体勢で続ける。


「本当!? お父さんもそれ聞いたらきっと喜ぶよ。どれどれ見せて」


 シャルルから盾を貸してもらったミケは、裏返して鉄球の1つを取り外し、それを顔の近くまで持ってくる。


「へぇ~この鉄球、普通のと違って横に筋が走ってる。盾の出っ張りがこの溝にハマって固定されるのか。あと角ばっている面もあるよ~?」

「少し削って貰って、盾の裏に収納しやすいようにして貰ったんだ」

「なるほどね~」


 あれ? 怒っていない?

 ミケはシャルルに用があって来たのかな?


「そうそう、話は変わるんだけどさ〜、この町には秘湯があるそうなんだけど、今から付き合わない?」

「いやー、さっき汗を流したばかりなんで」

「それとこれとは別の話だと思うよ。なんせその温泉、美白効果があるらしいんだよね~」

「今から行きましょう」

「という事で、シグナもちょっち付き合ってくんない?」

「えっ、俺も入るの?」

「なに馬鹿なこといってんの。護衛よ、ごえい」


 ミケは心底飽きれた顔でため息をつく。

 普通勘違いすると思いますよ。

 心の中でツッコミを入れてみた。

 あとミケが怒っていると思ったのは、取り越し苦労だったのかな?

 いや、念のため機会を見つけて謝っておこう。理由は定かではないが。


 それから秘湯を目指し宿を出発した3人は、町から外敵を阻むための境界線となっている壁の前まで来ていた。

 目の前の壁には、馬車も通れる大きな扉と、その脇に人1人が通れる小さな扉があり、来た時と違い今はどちらの扉も堅く閉められている。

 扉の両脇には、左右に1つずつ松明が設置されており常時闇夜を照らし、その明かりの下にはレギザイール兵が1人ずつ配置されていた。


 この町をぐるっと囲む壁を守護している部隊は、レギザイール軍第2師団の兵士達である。

 彼らはレギザイール王都以外の大小問わず全ての町に派遣されており、主に町の守護にあたる事を任務としている。

 また町の中には農業を生業としている町もあるが、そのような町では農作業を行う敷地にも壁を建設し、彼等はそこの警備もおこなっていたりする。


「今から出るのか?」


 兵士の1人が声を掛けてきた。


「ちょっと温泉まで」


 ミケの返答に、いやらしい顔つきになった兵士は、シグナに向かい「モテる男はつらいね~」などと声を掛けてくる。

 決してそんなんではありません。


「そうそう、少し離れたところで盗賊共の縄張り争いが激化しているらしいから、一応気をつけとけよ」


 忠告をかけてくれた兵士に頭を下げ、小さい方の門をくぐった一行は3人仲良く横に並んで歩いていた。

 真ん中を歩くミケは、宿から借りた松明に炎の魔法を唱え明かりを灯すと、少しだけ前を歩いている。

 またうっそうとした山道が続くが、月明かりもあるため視界は良好だ。


 ……謝るなら早いほうが良いよな。


「今日はすみませんでした」

「えっ?」


 声をあげたのは、シャルル。びっくりしたのかその場に立ち止まってしまった。振り返ったミケの松明に照らされたシャルルの顔は、目に見えて青ざめている。


「あっ、いや、ミケに謝ったんだが?」

「ん~? どういう意味かな?」


 語気が少し強いミケの言葉だが、負けずにしっかり謝ろうと思う。


「俺が今日、なにかやらかしたから怒っているんだろ?」


 一瞬言葉を失ったミケは、その瞳を見開く。


「シグナって、なんかいじめがいがありそ~だね」


 クスクス声を漏らしながら、猫がネズミで遊ぶような、どこか危険な笑みを浮かべるミケ。

 思わず身震いを感じてしまう。


「そうね~、許してあげてもいいけど、1つ質問してもい~い?」

「……あぁ」

「シグナはどこかに帰りを待っている女の人とかいたりするの?」


 なんだそれ?


「いや、いないよ」

「んじゃ、あんまり女性経験ないでしょ~?」

「それが一体なんなんだよ?」

「ふ~ん、そう言うことか」


 いつも1人で遊ぶような子供だったし、軍に入ってからはあっという間の3年間だったから、そんな暇はなかっただけ、の話だと思う。

 と言うか、いま2つ質問しましたよね?


「しゃるるん、シグナはシャイみたいだよ」


 なぜそれをわざわざシャルルに報告する?


 さっきから黙っていたシャルルも、それを聞いて声を漏らす。


「へぇー、そうだったんだ」


 あれ? シャルルさんまで何か恐いんですけど。


「まぁそれは置いといて、とにかく今は、美白、びはく~♪」


 そして一同は、また暗い山道を歩き出す。


「はぁ~、しかしもっと過激にいかないとダメかもね」


 ミケの意味深なつぶやきに、小声でシャルルに「どういう事なんだろう?」と尋ねると、下を向いて無視されてしまった。

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