シャルルの魔具
「また来てくれよ」
次のお店を出るとシャルルはなにかを思い出したようで、服の内ポケットから一枚の紙を取り出した。
「シグ、そう言えば城下町の中で一件、まだ行ってないところを見つけたんだけど、今日はそこにも寄ってみようよ。これ、昨日歩いてたら貰ったんだ」
シャルルは魔具ショップ『まぐまぐリガーシュル』のチラシを見せる。
ミケには先日情けない姿を見せてしまった。借りていたポンチョは返しにいったがそれっきりで、極力ここには訪れないようにしていた。
まぁ店内にあいつがいる訳ではないし、気になくてもいいか。
そうは言っても大通りを歩くシグナの足取りは重かった。
2人は魔具ショップ、まぐまぐリガーシュルの店先まで来ていた。
外から見てもお店の雰囲気がわかるように、ミケから渡された名刺と同じような可愛い猫の絵がガラスのいたるとこに書かれている。
ドアの上部に取り付けられた鈴の音を鳴らしながら店内に入る。
お店は他のお店と同じ広さがあるが二階建てになっており、傭兵風の男が階段を降りて来ている事から二階も魔具が展示されている事が伺える。またその二階から金属をハンマーで叩く音が聞こえてきており、吹き抜けから数人の客の姿も見える。
2人は他のお店と同じように別れ、展示してある全ての魔具のチェックに入る。
しかしお店のいたるところに猫の絵が書かれているな。
そして順に見て行くと、セースルの文字とこれでもかと沢山の猫の絵が書かれた一枚の札が目に止まった。
変わったものである、これは盾ぽいが?
それにしては小すぎる。長さは手首から肘まであるが、横幅は腕より少しあるくらい、また盾の魔具なんて聞いた事がない。
ケースには入っていなかったが、迂闊に触って炎でも出たら危ないので、そのセールになっている魔具をジロジロと見ていると後ろから声がかかった。
「それは触っても大丈夫だよ」
振り返ると祭りでねじりハチマキが似合いそうな、金色のメッシュが入っているおばさんが立っていた。
「それは零れの魔具を戦闘用に改良させたものでね、ただ5年も前からずっと値下げ中なんだけどね」
言われてその盾を腕に取り付けると、盾が腕輪から分離して宙に浮く。
「ウチの父ちゃんは天才だけど、馬鹿だから売れないもん作りたがるんだよ」
「物を動かすのは魔力を馬鹿食いするからですね、たしかに戦闘では使えないかも」
零れの魔具を手に持ち苦笑いをするおばさん。
「魔力容量を増やすための修行用なら、この安い方で十分だからね」
たしかにこの盾、値引きして60万Gは高すぎる。
「一応売り物なんだけど、どちらかと言えばウチの父ちゃんの技術力をお客さんに伝える宣伝用の品でね。あと二度とこんなものを作らないようにという戒めの意味でも飾っているんだよ」
二階からおじさんの大きなクシャミが聞こえる。
「それよりウチの零れの魔具も妥協を嫌う職人が作った高い水準のものになってるんだけど、ちょっとさわっていかないかい? 値段はよそと一緒だよ」
「いやっ、俺はいいんで」
「どれどれ」
いつの間にかシグナの後ろに来ていたシャルルが、その零れの魔具を少し操作したのち、シグナが棚に戻していた盾も少しだけ動かしてみる。
あれ? そう言えばこの魔具の盾って、魔力が満ちず守りに不安が付きまとうシャルルとしては、かなり相性がいいのでは?
「たしかにこれ使えないなー。それでおばちゃん、この盾ってもう少し安くならないの?」
どうやらシャルルもこれを気に入ったようだ。
「品は抜群に良いものだからね~」
渋るおばさん。
「じゃっさぁ、この零れの魔具二個も買うから、それで80にしない?」
いきなり30万も値切った。
「話にならないね」
「じゃ90」
「まけて105だね。これ以上値切られると真っ赤っかなんだよ。あんたらが自由が効く傭兵ならもう少し値切る分、仕事を頼むんだけど、レギザイールの兵隊さんならそうもいかないだろ?」
「その仕事を請け負ったらいくらになるの?」
「100だね。因みに仕事は、ホクの町へと配達に行くウチの従業員の護衛だよ」
そこはカザンとの待ち合わせの町に行く途中の町だな。
「ちょうど長期休暇中だから大丈夫だよ」
「本当かい?」
「その代わり少しカスタマイズしてよ」
「どんな風にかい?」
「持ち運びが楽になる様に、この盾の裏に……」
ん? そう言えば残金で剣を買わないといけないのに、これって予算オーバー?
「それじゃ、明後日に出来るけど、出発はいつしてくれるのかい?」
「明後日でいいよ。という事でシグ、お金貸してくれないかな?」
「そういう事かい」
一応二階のおじさんにカスタマイズの件の話をして、2人は頭金を支払いお店を後にした。
因みに盾が売れた事でおじさんは上機嫌のようで、他に要望はないかと言ってシャルルと結構な時間話し混んでいた。




