今日も良い天気
風を切り裂く音が耳元を通りすぎる。
慌てて横にステップするが、先程の鋭い音がシグナの後を追って何度も耳元を擦り続ける。
堪らず風を纏い、後方に大きく飛び退いた。
ここ数日の間、晴天が続いているが、今日も雲一つない青空が広がっている。
先程から鋭い風切り音を出しているのはシャルルが扱う木刀で、時折カッカッとシグナが扱う木刀とぶつかる音も鳴っている。
青空の下レギザイール軍の敷地内にあるスペースを借り、2人は木刀での手合せをしていた。
相方を務めるシャルルは、顔のシルエットに沿って肩にかからないようカットされた黄金色の髪の毛が、太陽の光に負けじと光り輝いている。またどこか幼い顔であったり髪の毛先が跳ねていたりとおよそ兵士の姿が似つかわしくない可愛らしい少女である。
しかしシャルルの剣技は素晴らしいものがあるな、と先程から感心させられている。
それに加えて身のこなしも軽いときている。
力が弱いのが唯一の弱点であるのだが、魔力が尽きないと言うシャルルの特異体質がある以上、魔具の剣を操ればこの弱点は無くなるに等しい。
ただ同時に常に魔力が満ちない特異体質でもあるため、人より身体能力が劣り肉体の強度が低い。そのため戦闘中は常に気が抜けない、下手をすればそく命に関わるものとなってしまう。
シャルルには言っていないが、もし戦いに出くわすような事があるならば、いつでもフォローが出来るよう近くで気にかけるように決めている。
「いくよ」
シャルルがステップでシグナの間合いに入り、そのまま突きを放つ。
距離感が掴みづらい、突きはやはり難しいな。
「避けるの早すぎ!」
シャルルからの注意が飛ぶ。
今まで目でそのほとんどを確認していたが、左目が見えなくなり視界が半分になっている今となっては、使えるものは全て、五感をふる動員しないといけないであろう。
攻撃の際は相手との立ち位置でその間合いがだいぶ掴めてきたが、守りに入ったさい、この突きがどうしてもわかりずらい。
先程から早くに躱しすぎて、それを確認されてシャルルの追撃の嵐にどんどんと苦しい状態に追い詰められてしまっている。
一度構えを解くシャルル。
「シグ、剣を私に向って突き出す形で構えてみたら?」
「こうか?」
木刀を前へ倒す形で両手で握ってみる。
「そうそう、それじゃ再開」
「ほれっ」
迫るシャルルの突き。
うん、確かにこっちのほうがいいかもしれない。
待てよ、これに横ステップを織り交ぜたら、昔のように引きつけて防ぐ事が出来るのでは。
ん、このリズムはシャルルが三連突きを出しそうだ。
……来た。
一度二度と風切り音が鳴りが鳴る度にカッカッと音を鳴らしながら木刀で防ぎ、そして三連撃最後の突きはギリギリまで引きつけながら前にステップし、いなしてそのままシャルルの脇を抜けお腹に木刀を当てる形で攻撃を止める。
「うわっ」
「おかげでだいぶ掴めてきたよ」
ん? 待てよ。
……カザン、いきなり後輩に教えられています。
カザンはシャルルが特務部隊に配属される事が決まったあの日、シャルルの転属の手続きをすませるとその日うちに次の任務のため城下町を旅立っていた。
シグナは療養の意味で王都で体を休めたのち、一週間後にここから北に進むとあるホクイールの町でカザンと合流する手筈になっている。
ホクイールまでは徒歩で丸一日の距離のため、その間が自由時間となっていた。
そしてシャルルもシグナに付き合う形で城下町に残り、午前中は片目になってしまったシグナの戦闘訓練を手伝い、昼食後は城下町に繰り出し彼女の力が一番発揮できる、才能に合った魔具探しを行っていた。
旅の行商が連日のように訪れる国最大の街だけはあり、必ずどこかの店ではその品揃えが大きくガラッと変わっている。
ここ数日と同じように、なにか掘り出し物がないかいつもの順番でお店巡りをしている。
予算は100万G。
お金の出処はカザンで、出世払いという事でシャルルが借りている。
魔具はとても高価だ。
指輪系は30万Gからで、シャルルが扱っていた電撃の剣は1本150万Gもする。
剣の魔具は安くても百万以上がざらなので、こちらは普通の剣でそこそこ使える物を選ぶ事にして、指輪系の魔具でお金をかける事に決めた。
お店をいつものように見て回る内に、顔馴染みのお店も結構出来た。
「何か掘り出し物を入荷したら、取っておいて下さいね」
「はいよ、じゃあねシャルルちゃん」
お店を後にした2人はその足で次のお店を目指し、一度大通りを流れる人混みの中に身を投じる。
「そうそうシグ、私のキャッチコピーが出来たよ」
「へぇー、よかったな」
「しくしくだよ、シグが適当に相槌入れるから、シクシクだよ」
「あぁ、聞いてやるからさっさと言っていーぞー」
「ずばり、千年に1人の逸材」
「そんなのいつ使うんだよ」
「戦う前に、これで相手をビビらせるのだ」
「凄すぎて、相手に伝わらないよ!」
「やり直しか」
「あぁ、出直して来い」
「しかし私のおかげで鋭いツッコミをするようになったよね」
「ほんとシャルルのおかげだよ」
ため息混じりに言うと、シャルルが抗議するかのように体あたりをしてきた。




