【プロローグ】月の魔竜
遥か昔、月の魔竜と呼ばれる一匹の魔竜が地上へ降り立った。
その魔竜は、夜陰に浮かぶ月光のごとき白き翼と闇夜に走る稲妻のごとき鋭い体躯を有し、見る者全ての心を魅了し動けなくしてしまう美しい竜であった。
しかしその性格は真逆。
視界に入った全ての物を破壊し尽くし、それでも止まらない魔竜は猛り狂い、まるで空を割らんとばかりに世界を揺さぶる咆哮を上げ、大地の原型を消失させる踏みしめにより世界中の火山を大噴火させた。
我が物顔で暴れ続ける魔竜から、もう人々は逃げ惑うことすら出来ない。
運よく生き残っている人々も、いつ死の順番が訪れるのかを身体を震わせながら待つしかなかった。
そんな人々は、いつしか天へと祈りを捧げるようになる。
そしてそれに応じるかのように、奇跡が起きる。
暗雲広がる上空に、雲を切り裂き一筋の光が大地へと届いたのだ。
そしてその眩い光の中から人々が息をするのを忘れる程の美しい姿と、慈悲に溢れる光と共に姿を現した者こそが女神レイアザディス。
そして女神は魔竜の下へと舞い降りる。しかし魔竜は、怒りを鎮めようとする女神にもその怒り狂う鋭い牙を向けると襲い掛かった。
そのため女神は五人の使徒を遣わせ、その魔竜の体躯を地上深くに縛り付ける。
それでもなお、魔竜は止まることを知らないため、女神はその猛りを鎮めるためにその首を斬り飛ばした。
今でもその縛り付けたとされる大地には、魔竜の瘴気で草木が一本も生えずに、一面砂の世界が広がっている。
これは人々の間に伝わる、遥か昔の物語である。




