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【エピローグ】シャルルゴールド17歳、特技はジャグリングとちょいと拝借。

 翌日の昼過ぎ。

 シグナとシャルルはカザンに誘われ、カザン馴染みの丸得亭まるとくていに来ていた。いま丁度皆でテーブルを囲んで座ったところだ。

 女将さんがお冷を運んで来る。


「おや? シャルルちゃんとカザンさんはお知り合いかい? 」

「いえ、シャルル君とはさっき初めて会ったところなんですよ、このシグナ繋がりで」

「ほぉー、おっちゃんどこ行っても知り合いがいるね」

「シャルル君程でもないよ」


 何が可笑しいのか、二人して大きな笑い声を上げる。

 その隙に女将さんが小声で尋ねて来る。


「シグナちゃん、全身包帯巻いてどうしたの? 」

「まぁ、ちょっとですね」

「体は1つなんだからね、大事にするんだよ」

「はい、ご心配おかけしてすみません」

「それで何にするのかい? 」

「いつものようにお任せでお願いします」


 女将さんは「あいよっ」と返事をすると、カウンターにいるマスターに「お任せいつもの! 」と声を張り上げた。

 するとマスターも「お任せいつもの! 」と店内に響く声で返した。


「改めてシグナ、今回はご苦労だったな」

「いいとこなしだったよ、まさか他に石が実在するとは思ってもみなかったし、結果片目を潰されたわけだし」


 人前で魔宝石の話題を出す際は、 無用なトラブルを回避するため2人はと呼んでいる。


「はっはっはっ、男前になったではないか。それと片目でもなんとかなるもんだぞ。若い頃なんか修行で目隠しなんてしょっちゅうやっていたしな」


 カザンは特別なような気がするが、それはさて置いて……よし、今聞くぞ!


「カザン、こんなになってしまったけど俺、まだ特務部隊にいてもいいかな? 」

「……シグナはどうしたいんだ? 」

「これまで以上に、足を引っ張るかもしれないけど、カザンと一緒に旅をしたい! 」

「そうか、なら話は決まりじゃないか」


 カザンはゆっくりと、そしてしっかりとした声で笑い声を上げる。

 ありがとう。


「おっちゃん、ものは相談なんだけど、私もその特務部隊に入れてくれないかな? 」


 シャルル、唐突にそんなお願いしてもだめだろ?


「おお、構わないよ」


 二つ返事でオッケーを出すカザン、っていいのかよ!


「やったー」と大はしゃぎのシャルル、を横目で見ながらーー。


「カザン、大丈夫なの? 」

「実はシャルル君の頑張りは街の人達から聞いていてな、それとユアン君に決闘を申し込んで勝利したそうではないか」

「それはそうだけど」

「やる気がある上に実力が備わっているなら、言うことなしだ」

「そうですかい」

「それとこれはシグナのためでもあるから、頑張るんだぞ」


 背中をドンと叩かれる。


「カザン、それはどゆこと? 」

「後輩がいるという事は、教えることによって自身も成長させるチャンスが生まれるということだ。人生勉強勉強」


 教える立場か。こんなになってしまったが、まだ人の役に立てるのかな?

 ……人に必要とされる存在、なれるといいな。

 そんなシグナをよそに、シャルルは満面の笑みを浮かべている。


「よしゃー、1年ぐらい旅をして実績と共に実力磨いたら、軍に戻って出世コースに乗ってやるぞ! 」

「相変わらずたくましいな」

「私を誰だと思ってやがる! 」


 絶好調ですね、シャルルさん。


「はいっどうぞ」


 女将さんからメニューに載っていない料理が続々と運ばれてくる。

 そう言えばーー。


「そうそうカザン、シャルルは変なんだ」

「シグ~、それはちょっとどういう意味なのかな~? 」


 餌を投げれば食いつきそうだが、ここは我慢我慢。


「いやいや、魔力総量の件なんだけど、本人は軍で測ったら18と言われたそうなんだが、俺はその測定が間違っている気がするんだ」

「ほぉぉ」

「シャルルには何か隠された力みたいなものがある気がするんだよな」

「シグ、いい事を言うではないか」


 カザンは少し考える素振りを見せた後、口を開く。


「その話、興味深いな」


 そしてシャルルに質問を投げかける。


「シャルル君、なにか特技はあったりするのかな? 」


 即答するシャルル。


「ジャグリング」


 いやいや、それは仕事に関係ないだろ。

 ……そう言えば初めて会った時、剣を放り投げていたけどそういう事か。

 それよりーー。


「他になんかないのか? 」


 もう一度言うチャンスを作ってあげると、シャルルは眉間にシワを寄せ記憶の中から何かを探し出そうとしている。そしてーー。


「後は人混みの中でぶつかった拍子にその人の財布を抜……」

「ストップストップ! それ以上は言うな! 」


 なんてこってすシャルルさん。それは警備兵のお前さんが持っていて良いスキルではないぞ。

 カザンはと言うと、大声をあげ笑っている。そして笑いが引いてくると質問を再開した。


「走ったりするのは苦手かな? 」

「苦手じゃないけど持久力が皆と比べてないほうかな。速さは普通だと思う」

「そしたら次の質問だ。産まれた時、熱にうなされていたとかは聞いたことがないかな? 」

「詳しくは知らないけど、小さい頃から体が弱かったってお母さんが言ってたよ」

「なるほど、どれどれ」


 カザンが席を立ちテーブルに身を出すと、流れる動作で華麗に、そして素早くシャルルの髪の毛を一本だけ抜き取った。


「いたっ!」と頭を押さえ声をあげるシャルル。そして涙目でカザンを睨んだ。


「おお、すまないすまない。ところで魔力を一番最後に使ったのはいつか覚えているかな? 」

「昨日の夜、ストームと戦ったとき」


 それを聞いてカザンは、髪の毛をピンと張った状態にして人差し指を引っ掛けると、そのまま手前に引き切ってしまう。


「なるほど」


 カザンは何がしたいんだ?

 次にカザンは袋からおもむろに水晶を取り出すと、それをテーブルの上に置いた。

 そして手をしばらくかざすと、水晶の中に一人のレギザイール兵の姿が映し出された。


「カザン連隊長、どうかされましたか? 」

「シャールストン、忙しいところにすまないな。実は『こぼれの魔具』一式と『光の調べ』を借りたいのだが、確か第一師団のお前のところが保管管理を行っていたな? 」


「えぇ」と返事をするシャールストン。


「その二つ、今から取りに行っても良いかな? 」

「カザン連隊長の頼みとあらば断る理由はありません。今はどちらですか? 」

「本部の近くにある丸得亭だが」

「わかりました、今から御持ちします」


 そう言うと一方的に水晶の映像が切られてしまった。

 カザンはそれを受け顎の辺りを押さえ「んー」と唸る。


「シャールストンには悪い事をしてしまったな」


 げっ、という事は、今からあいつがここに来るのか? うぅぅ、胃が痛い。

 そっ、それよりーー。


「カザン、結局さっきのは何だったんだ? 」

「すまない、確証が出来るまでもう少し待って貰ってもいいかな? シャールストンが来れば何らかの答えが出せるはずだ」


 ふとシャルルに目をやると、元気がどこかに飛んでいったかのようにシュンとしている。


「どうした? 」

「いや、警備兵も今日で終わったんだなーと思って」


 警備兵の階級章を取り外し、考え深そうに眺めているシャルル。

 そして次の瞬間にはいつもの元気な姿に戻っていた。


「シグ、神様は見ていてくれているよ! 」

「そうだな、それよりオンオフが激しすぎるぞ」

「なっ、私が計算していやらしくも効果的に虚言を交えたうえでキャラを使い分けているみたいな事を言わないで貰えるかな? 」

「俺がいつそんな事を言った? 」

「シグ、偽証は言葉の潤滑油と言う名言を知らないのか? 」

「知らないよ、って言うか嘘を認めたな! お前はもう完全に腹黒キャラだよ! 」

「なに! 私が自覚していないうちに、ジョブチェンジしていただと! 」

「よかったな」

「よかない! とにかく私のカテゴリーは天然なのだ」

「そうですかい」


 なんかシャルルと話すの、楽しいな。


「そんなことよりおっちゃん、特務部隊の腕章みたいのはないの? 」

「……そうだな、その階級章を貸してくれるかな? 」


 カザンは受け取った鉄の階級章を親指と人差し指で摘むと、ぐにっと音を立て違う形に変えた。


「これで晴れて特務部隊の一員だ」

「サンキューおっちゃん」


 なに今のやりとり? かれこれ2年半くらいここにいるのだが、特務部隊ってなんでも有りなとこだったんだ。

 そんなことより、も一つ気になっている事があったんだった。


「そう言えばカザン、あの水晶の化物、大人しく封印されたのか? 」

「あぁ、秘宝のおかげでな。ただあの秘宝……いや、何でもない。今のはなかった事にしてくれ」


 カザンは珍しく慌てた素振りを見せ、笑って誤魔化そうとする。


 その時カランカランっと、お店のドアが開いた事を知らせる鈴の音が聞こえた。

 そして入り口には、黒髪に角ばった黒縁の眼鏡をかけ、肩口に隊長職を表す階級章を身に付けたレギザイール兵が、布に包まれた物を大事そうに両手で抱えていた。


「すまないなシャールストン。どうだ、お前も食べて行くか? 」

「仕事中ですので、申し訳ありませんがそのお気持ちだけを頂きます」


 シグナと一瞬目が合うが、何も言わずに視線をカザンに戻す。


「連絡を頂ければ回収に参りますので」

「いや、届けさせて貰うよ」

「ありがとうございます、ではこれで私は失礼させて頂きます」


 すぐにお店から立ち去るシャールストン。

 とにかく何事も起こらなくて良かった。


「では始めるとするか」


 カザンはシャルルの前に『光の調べ』を置くと、それに手をかざすようシャルルにお願いする。

 シャルルが手をかざすと、水晶がふんわりと柔らかな光を放ちだす。

 確かに光は弱いようだ。

 それを確認したカザンは、光の調べをしまうと次に『零れの魔具』を取り出す。

 これは指輪と直径三センチの鉄球が対になっている魔具で、指輪を介し魔力を消費する間、離れた鉄球を空中など自在に動かす事が出来るものだ。


 筋肉は使えば使うほど鍛えられて行くが、魔力も一緒で使えば使うほどその総量が増えていくらしい。

 そしてこの零れの魔具は、魔道士が魔力総量を増やす修行に使う魔具の一つである。


「シャルル君、この指輪をはめて鉄球を動かすイメージをしてくれるかな? 」

「了解! 」


 右手の中指に指輪をはめると、鉄球がシャルルの目の前まで上がりフワフワと浮かんだ。


「これから? 」

「私が良いと言うまで自由に動かしてみてくれ」

「よし来た! 」


 シャルルは鉄球をジャグリングの容量で上へ下へと円を描くように動かしていたかと思うと、前方に伸ばした腕の周りをグルグルと回し始めさせ、その後頭上高くまで上げたのち、落下してきた鉄球をまた伸ばした腕の周りでグルグルと回転させた。


 そしていつの間にかシグナ達のテーブルの周りには、シャルルを中心に人だかりが出来ており即席の観客達はシャルルの曲芸のような鉄球捌きを見て感嘆の声を漏らしていた。

 シャルルも調子に乗り、鉄球の動きを段々とエスカレートさせていき、天井スレスレまで上げると、その鉄球の下でかしこまってお辞儀をしシャルルの目の前へ鉄球を降らすと、床に衝突する寸前で静止させ、観客の拍手を受けたのち鉄球の操作を再開させた。


「しかし驚いたな」


 思わずカザンが声を漏らす。

 今の鉄球の動きはたしかに凄かったが、カザンが驚く程なのか?


「なにが凄いの? 」

「髪の毛にも魔力が宿っているのはしっているかな? 」

「あぁ」

「シャルル君の髪の毛は柔すぎる。魔力が満ちているはずなのに、魔力が消費された時と同じ程度の強度しかないのだ」

「カザン、さっぱりなんだけど」

「実はな、大昔にシャルル君と同じように魔力を消費していないのに、魔力が満ちることがなかった特異体質の者がいた。その人物とは、あの大魔道士ディブレフルールだ。ディブレは生まれてから魔力が満ちた事が無かったが、枯れた事もなかったと言う。恐らく器となる物が、その溢れる魔力で破裂しないように穴が開きっ放しになっていたのかもしれない。例えるなら穴の空いた風船に空気を入れ続けているため、パンパンに膨れることもないが完全にしぼむ事もないという事だ」

「魔力が枯れない、それって魔法を使いまくれるって事? 」

「回復速度によるだろうが、あの零れの魔具は一分間に魔力を15消費する。すでに3分以上経っている事から、シャルル君の回復速度はそれ以上という事になるわけだ」

「なるほど、でもシャルルかなりきつそうだな」

「おお、シャルル君すまなかった! もうやめていいよ」


 テーブルに突っ伏すシャルル。


「鼻から血が出そうだった」

「大丈夫か? 」

「ギリギリなんとかね」


 顔を上げたシャルルにカザンが語り始める。


「しかしシャルル君は魔法学院に入学したほうがいいのかもしれない。私の知り合いがあそこの校長をやっているから話をつけておこうか? 」


 シャルルは無言で考える素振りを見せる。

 出世を夢見るシャルル、のはずなのに、この話には飛びつかない。

 そこにカザンは構わず続ける。


「シャルル君の潜在能力ならば問題なく入学出来るだろう。あそこにはシグナの妹セレナ君もいるし、なにかあれば彼女を頼るといい」


 するとシャルルは薄っすらと涙を浮かべた。


「私の階級章をこんなにしておいて今更よそにいけだなんて、ひどい」

「シャルル、どうしたんだ? 魔法学院に入れば出世を約束されたようなもんなんだぞ」

「実は魔法とかしょうに合わないみたいなんだよね、だからこっちの方で頑張りたいなーって。ダメかな? 」

「シャルルがそうしたいのなら、俺に止める権限はないけど」

「それじゃ決まりね。それよりシグに妹がいたとは驚きだよ。たしかにシグって抜けている割にどこかお兄さんぶっているよね」

「えっ、俺って抜けてるの? 」

「あたっ、自覚なかったの? 」


 何気にショック。


「シャルル君、本当に良いのか? 」


 カザンの問いに、シャルルは笑顔で答える。


「うん、良いよ。まーとにかく、頑張って取り敢えずイールの騎士ぐらいにはなるから」


 シャルルは簡単に言っているが、イールの騎士と言えば、レギザイール軍の実力者八名に与えられる名誉ある称号で、魔法が込められた紅蓮の鎧を与えられている者達である。

 因みにカザンは動きにくいと言う理由でこの称号を辞退していたりする。


 しかしすんごい才能がある以上、シャルルは本当にイールの騎士になってしまうかもしれない。

 ふと視線を感じてシャルルを見やると、こちらを見てニヤニヤしていた。


「シグ、私がイールの騎士になったら、本当に召使いとして雇ってあげようか? 」

「シャルル、俺は気付いたよ。お前には教育なんて生ぬるい、しっかりとした調教が必要であると」

「シグ、なんかエロい」

「だからそっちではないわい! 」


 シグナの振り下ろしたチョップを、シャルルはものの見事に両手で受け止めた。


「なに! 」

「同じ手を何度も喰らうマヌケとでも思っていたのか」

「こやつやりよる」

「お主もなかなかのものぞ」


 カッカッカッと2人の笑い声がシンクロする。

 するとその間にカザンが現れ、強引にシグナ達をぐっと抱き寄せた。


「引き離そうとして悪かったな」

「「それはどういう意味だ! 」」


 また声が丸得亭でシンクロした。

 シグナ達の元気が天まで届いたのか、今日も太陽がサンサンと輝いている。


 そして冒険は、ここから始まる。

これで第一章が終わったわけなんですが、皆様お付き合い下さいまして、ありがとうございます。


頭の中にある物語を文字にするのに慣れていないもので結構大変だったのですが、皆さんの足跡にどれだけ励まされたことか。

新規の方の足跡も嬉しいのですが、定期的に最新話を見てくれている足跡も同じくらい励みになりました。


少し充電した後、また毎日連載目指しますので、よければお付き合い頂ければ嬉しいです。


因みに第二章は「月の魔竜と魔弾の射手(仮)」となっておりますです♪

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