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シグナの魔宝石

 シャルルは折れた電撃の剣を手に、その場で茫然と立ち尽くしていた。


「シャルルさん! 」


 パラディンが助けに入ろうと、盾を前方に構えたままガチャガチャと音を鳴らしながら駆けて来ている。

 ミケも残り少ない矢を番え、狙いを定めようとしている。


 ふざけんなよ!

 魔竜長剣ドラゴンソードを地につき立ち上がると、動けないでいるシャルルの前へと陣取る。

 シャルルは死んでも守りきる!


「シグ! 」


 さぁ、かかって来い!

 そんなシグナの目の前で、悪魔は歪んだ笑みを見せた。そしてら自身の胸に指を突き立てると、摘み取るようにして体内から何かを取り出した。


 あれは、魔宝石!


 引き潮のように血の気が引いていくシグナをよそに、魔宝石から起こるジジジジッと空気を震わす程の振動が、身体を芯から無理矢理揺さぶる。

 その時、コツコツと胸に何かが当たっている事に気がつく。視線を落とせば、先程悪魔に押し倒された拍子にネックレスが表に出てしまっており、魔宝石の振動によって胸に当たる形で跳ねていた。

 もしかしたらこの光で、あいつが魔宝石を落とすかもしれない!

 そして自身の持つ白銀の魔宝石を、藁にもすがる思いで抱き締めるように握る!

 そしてシグナの全ての魔力を使い、いま光が解き放たれた!


 そして程なくして、光が収束していく。

 目がチカチカとする中、悪魔を確認するが魔宝石を落とす事は無かったようだ。しかし奴の魔宝石から、先程の振動は消えていた。

 どうしたんだ?

 不思議に思い奴の魔宝石を注視していると、一陣の風が吹いた。そしてその風に吹かれ、奴の魔宝石が砂のようにして形を崩していく。


 それを目の当たりにして、悪魔も動きが止まってしまっていたが、ふと我に返り風の刃を飛ばすために虚空を撫でるようにして大きく振った。

 しかし何も起こらない。

 代わってシグナが握る魔宝石が、静かに震えていた。


 どう言う事だ?

 この感じ、これは風……シグナの魔宝石の中に風が、風が入ったのか?

 白銀色の魔宝石は薄っすらと緑がかっており、その中で風が流れている感覚が伝わってくる。


 もしかして、奪い取ったのか?

 この魔宝石は他の魔宝石の力を奪い取る魔宝石なのでは!

 そして、握っているだけでは力を発動していない事に気付く。どういう事だと焦って力強く握ってしまうと、それに呼応して魔宝石がジジジジと空気を震わせ始めたため、思わず手を離してしまった。


 胸の辺りで振り子のように揺れている魔宝石。

 先程の感覚、恐らく力強く握ればあの凄まじい威力の突風が解き放たれる。

 この力を使い奴を吹き飛ばす!?

 いや違う、それではない。

 シグナが使うなら使い方は一つだ。

 相手を吹き飛ばすのではなく、自身が吹き飛ぶ、即ち移動に使うのだ!


 魔宝石を奥歯で軽く噛んで固定。魔竜長剣は水平に構え脇を締めたうえで力強く握り込み、さらに殴打面を体へと密着。

 そして悪魔がこちらに駆けようと重心を落とし始めると同時に奥歯で魔宝石を力一杯噛み締めた。

 口の中で小刻みに震えていた魔宝石は、次第にその震えを大きくしていく。


 そして時計の秒針が動きだすよりも早く、流れ星がその姿を見せ消えてしまうよりも短く、瞳がまばたきをして目蓋を上げる刹那の間で、シグナは悪魔の脇を通り抜けていた。

 魔竜長剣が通過したであろう悪魔の腹部部分は、派手に肉が吹き飛び背骨が外気にさらされた。そして悪魔は、糸の切れた人形のようにその場に膝を付いたのち、ややあって顔から突っ伏した。


 シグナが先程までいた場所の地面は大きく削れ、そこにあったレンガと土は、爆炎魔法を撃ち込んだかのように吹き飛び空へと舞い上がっている。

 そしてその遥か上空に、シグナの姿があった。


 危なかった!

 悪魔の脇を通りすぎた後、咄嗟に上へ飛ばなかったらその先にあった壁に激突してぺっしゃんこになっていた。

 自然と安堵のため息が漏れる。


 下を見下ろせばレギザイールの城下町が、あの丘から見たときと同じくらい小さく見えた。

 ……綺麗だな。


 ふと袖で口元を拭うと、真っ赤な色に染まった。

 あれっ、吐血している。

 暫くするとあばらの付近が痛み出してきた。

 こっ、これって、洒落にならない威力!

 と言うかこの魔宝石、ヤバすぎて使えなくないか?

 しかも激突を防いだはいいが、魔力がすっからかんの状態でどうやって着地しよう?


 魔宝石からまだ風が溢れている事に気付くまでの長い時間、それはシグナが絶望を抱えた時間でもあった。

 そのあと大通りの一本で着地と同時に魔宝石を解き放つ事を試みる。結果、地面を転げ回ってボロ雑巾のようにボロボロになったが、なんとか激突は免れ命を失わずに済んだ。


 そして後からシャルルに聞いた話によると、この時まだ悪魔はうつ伏せに倒れてはいたが、生きていた。


「息があるようですね」


 そう言って剣を振り上げるパラディンは続ける。


「早く楽にしてあげましょう」


 その時シャルルの全身に悪寒が走る。

 その悪寒を感じたほうを振り返るが誰もいない。ただその遥か先にはレギザイール城があり、城に聳え立つ三本の塔の一つ、その最上階の窓から光りが外へ漏れ出していた。

 そして突然悪魔が上体を起こし振り返った先は光が漏れているその塔。


「月ノ魔リィュゥヴー! 」


 悪魔は憎々しい咆哮のような声を上げ、地を蹴りその場を飛び立つ。

 しかし悪魔は数度翼を羽ばたかせたのみで、突如その翼を動かさなくなり下降を始めると、そのまま地に落ち動かなくなった。

 これが悪魔の、ストームと呼ばれた人間の最後であったそうだ。

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