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雨が聞こえた

 ◆ ◆ ◆



 瞼を上げるとそこは暗闇であった。

 何も見えない、そして……動きたくない。

 ずっとこうしている内に、徐々に不安が心の中を占める割合が増してきた。

 その時何か聞こえた気がした。

 耳を澄ませば、それが雨が降る音であると感じる事が出来た。


 そして遠くに、米粒程の小さな光を見つける。

 出口なのか?

 フラフラとそちらに引き寄せられるようにして足を動かす。とその瞬間、その光がまるで吸い寄せられるようにして迫り出した。反射的に仰け反り腕を顔の前まで上げると、あっという間に光に飲まれ視界が真っ白になった。

 次第にその光が治まってくる。すると代わりに雨の音が激しくなっていた。


 服は見やれば泥だらけ、手には短剣が握りしめられている。

 短剣?

 何を、しているんだ?

 ……そうだ、丘に向かっているんだった。

 体中を横殴りの雨が叩きつけ、目を開けていられないが、それだけは何故かわかった。


 なんとしてでもあそこに行くんだ。

 そうしないとダメなんだ。

 ぬかるんだ大地を踏みしめて進んでいると、丘の頂上に鎮座するいつもの大木が見えた。

 よし、いつも通りにやるぞ。

 丘に到着したシグナは、まずは木に登り街を見下ろす。

 次は叔母さんの家から持ってきた、パンを取り出しかぶりつく。

 パンには何も挟まれていない。またパリパリと堅いため、思いっきり手で引っ張ってちぎると口にほおり込み、何度も何度も噛んだ後にやっと飲み下すことが出来た。


 よし、次は勇者ごっこだ。

 既に全身びしょ濡れだが、かまうもんか。

 敵をやっつけるんだ。

 えい! やー!

 長い時間頑張ったおかげで、雨もだいぶ弱まってきた。


 そしてこれで最後だ。

 風が冷たいが、負けるもんか!

 風を避ける位置で幹に寄りかかり、体を縮める。


 疲れているが眠気は中々やって来ない。

 よし、眠気が来るまで、転がっている石の数を数えよう。

 しかし石数えはすぐに終わってしまう。

 次は何を数えよう? ……水溜りに落ちる水滴の数を数えるか。

 厚い雲の先にある、太陽が沈んだのであろう。辺りが次第に暗くなり完全に水滴が見えなくなると、次は街の明かりの数を数え出す。

 時間が経ち明かりもなくなると、一人暗闇に取り残された。


 ここで寝ないと、いけないんだ。

 起きたらきっと、お父さんとお母さんがそこにいるんだ。また四人でご飯を食べるんだ。


 ……お父さん、お母さん。


 目を開くと、焦点が合わない。ややあって目が慣れてくると、天井がかなり高い事がわかった。ここは……洞窟の中のようだ。

 上半身をゆっくりと起こし辺りを見回すと、光苔が壁一面に生えており、その光が足場の白い砂を照らし出していた。

 すぐ近くには川が流れており、その流れを目で追っていくと、隣にミケが座っていることに気づく。

 ミケは焚き火に薪となる木を焼べ団をとっていた。

 シグナは上体を起こしミケに視線を送ると、ミケもこちらに気がついた。


「あっ、おはよ~。もう動けるみたいだね」


 ここは?

 ……そうか、崩落に巻き込まれたんだった。ストームと戦って。


 顔の左側が痛む。

 そうか、あの時目を潰されたんだった。


 右手で左目のあたりを触ると、肌の上に何かが巻かれているのが分かった。左腕には、良い香りがするふわふわの生地でガッチリと体と腕を固定されている。

 この布はたしか、ミケが羽織っていた服か。


「あっそうそう、あんたのコートの内ポケットに入っていた薬草と包帯、使わせて貰ったからね」


 ミケが手当てをしてくれたのか。


「私達はあの砂場に落ちたの。そしてその真上の穴見える? あそこを通って来たんだけど、あの有様なんだよね〜」


 ミケが指差す盛り上がった砂場の遙か上空には、パラパラと僅かに砂が零れ落ちる穴があった。そしてその穴からは石柱が少し飛び出した所で止まっており、どうやら土砂もそこで詰まっているようだ。

 来た道、というか来た穴から戻ることは出来そうにない。


 不意にカザンの姿が頭に浮かぶ。

 すまない。頭では分かっているつもりだったんだけど、本当の意味では全く理解出来ていなかった。戦いになると引き際を考えず深追いをするシグナの悪い癖。

 人は痛い目に遭って初めて理解するって聞くけど、……その代償がこの有様か。

 心が折れてしまった。

 腕は完治したとしても、これから片目だけで戦う自信がない。

 兵士としてのシグナは、……ここで終わったんだ。


「何へこんだ顔してんの? 」


 真正面からミケを見れない。

 今は何もしたくない。何も考えたくない。


「……しょうがないな。普通は、こんな事しないんだよ」


 ミケがすぐ側まで来たかと思うと、抱き寄せられ、そして頭を撫でられた。

 暖かい、そして涙が止まらない。


「俺、とことんカッコ悪いな」

「誰にも言わないから、思いっきり泣いてい〜よ」


 こんな状態でもまだプライドは残っていたみたいだ。声を上げるのを必死に我慢して泣いた。涙が枯れた後も泣いた。

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