1対2
シグナ達は酒場からすぐの、ちょっとした広場に来ていた。
本当なら城下町の下に存在する、地下空間での戦闘が周りに被害が少なくてベストなのだが、花火を見逃さないためにも今回はキャンセルである。
しかしシグナを倒して名を上げる、もしくは逃げたら逃げたでその話に着色をして武勇伝に仕立てあげる、相手にとってこんな美味しい話は無いだろう。
逆にシグナとしては、軍に所属している以上、名が売れても階級と給料が上がらなければ意味がない、シグナにとって決闘は美味しい所が少ないイベントである。
まぁ、カザンと旅をしているときに何度かカザンが標的にされていたが、その度にカザンが述べた台詞をこれからシグナも発しようと思う。
ちょいテンションあげめで。
「何を賭ける? 」
「あんたの名前だけで十分じゃ。魔竜殺しを倒したと言う実績がありゃ、この肩書きを使ってたんまり稼げるからの」
「それじゃ、俺もあんた等の名前を使わせて貰おうかな」
「……どういう意味だ? 」
眉をひそめる魔道士。
「今回のように誰かが俺を倒しに現れたら、まずはあんた等を倒してから来な、ってな具合にな」
「若造が……面白い。始めるか」
魔法使いが後ろへと飛び、間合いを広げると共に呪文の詠唱に入った。
やはり魔法使いだったか。
敵に魔法使いがいる時の戦闘では、魔法使いに魔法を使わせないに越した事はない。なので速攻狙うのがセオリーだ。
足に纏った風を解放し、一直線に魔法使いとの距離を詰める。
戦士が間に入ろうとするが、進行方向を微調整しそれを躱す。
慌てた魔法使いは呪文の詠唱を中断、そして右腕をこちらに向かい、突き出した。
裾から指輪が見えた。
魔具だ。
そして飛び出てきたのは火の玉。
よって相手は炎の指輪を装備している事になる。
炎系、定番であり応用が効きやすく、殺傷能力が、氷、雷、風と他の属性魔法の中で頭一歩出ている。その理由は延焼効果が付いていることに他ならない。
魔具は正規の魔法の劣化版と言う位置付けであるが、使い勝手が非常に良い。今のように唱えようとしている魔法を緊急の事態で辞めた時、既に魔法のイメージは出来ている訳なので同じ系統の魔具を所持していれば直ぐの対応も出来るのだ。
しかしこの魔法を使った事から、魔道士は街中でも平気で炎系の魔法をぶっ放す、目的のためには手段を選ばない奴と言うことがわかった。
よし、手は一切抜いてあげないぞ。
長い裾で指輪を隠していたがバレバレだったため、シグナはたやすく炎を躱していたのだが、追撃しようとしたところを戦士に邪魔をされ少し距離を取っていた。
その距離は目算で7〜8メーターぐらい。しかし魔道士は呪文の詠唱を始めようとしない。
まあ今のでどれだけ間合いを取らないと呪文が撃てないのかを把握しただろう。
ただこちらとしても戦士の方に集中して戦うためにも、その間合いは今後一切与えないようにするけどな。
戦士はスッと、シグナと魔道士の直線上の間に入る。そして何の迷いも無く間合いを詰めると両手で握る長剣を振り回し始めた。
こちらが魔力を消費したので力で負けることはないと考え、積極的に攻めて来ているのだろう。
確かに真正面から受け止めていてはジリジリと体力を奪われてしまうが、相手の力を上手いこと逃がしていけば問題ない!
戦士の振り下ろされた剣を真正面から魔竜長剣で受けると見せかけて、受け流す。
戦士の剣が石畳に振り落とされた。ギャリッと金属と石とが衝突する音が鳴る。
そこで攻勢に移る!
シグナは殴打面で手首を狙う、が戦士は長剣を持ち上げることなく捻るようにして回転させると、十字架のように飛び出た鐔の部分で攻撃を受け止めやがった。
しかしそこで諦めない。シグナは続けて攻撃を行うため風を纏う。そして死角に回り込むと背中へ向け殴打面を振った。
目で追われていたため長剣でギリギリ受け止められてしまうが、無理な体勢であったためよろける戦士。
チャンスだ、貰った!
しかしそこへ距離を詰めて来ていた魔道士が、炎の指輪を力強くこちらへ向けた。
不味い!
咄嗟に上体を仰け反り後方へ飛び退くと、目の前を火の玉が通り過ぎる。
くそっ、追撃を遮られれてしまったか。戦士はすでに体勢を取り戻している。それと魔道士の奴、呪文有りの魔法を早々に諦めて、魔具でのサポートに切り替えたようだ。
と思いきや、呪文の詠唱に入る魔道士。そこへ戦士が斬り込んで来た。
やられた。思考の逆を突かれたうえに距離まで開けられてしまっていた。
しかしこの呪文、発動させても戦士を巻き込まないものであろう。
となると考えられるのは剣に魔法を付与させたり、肉体強化等をはかる補助系の魔法。しかし戦闘中の戦士に魔法をかけるのは難しい。それは補助系の魔法を付与させるには、対象に対して直接触れなければならない。
勿論そんな隙は与えない。
また魔力を消費している魔法使い自身に肉体強化を行っても効果が薄い。そのため唱える呪文は高確率で魔道士自身の剣に魔法を付与、である。
「炎固定中等魔法」
魔道士の剣から炎が噴き出した。
たしか発動に魔力を7必要とし、あの状態をキープし続けている間、毎分魔力を6消費したはず。
本来なら相手をせず、どこか遠くへ逃げて魔力が尽きるか解除するのを待つのだが、今回は修行のためと思い、ちょいと立ち向かってみるとしましょうか。




