続ストーム対策部隊
続々とお店に入ってくるお客さん達。
外が小暗くなって来ているため、商店を閉めた店主やチェックインを済ませた旅人達が外に繰り出す時間帯に突入したようだ。
注文を取りに行ったりお盆に乗せた料理を運ぶウエイトレスさんが、テーブルの間を忙しなく行き来しているため、店内も活気に満ちて慌ただしくなってきている。
広い店内もだいぶ混み合って来たな。
シャルルは既に満腹になったようで、ユアンとのお喋りに夢中のようだ。
ふー、シャルル、食べ残しは良くないぞ。
シグナは皿の上に一つだけ転がっている唐揚げを摘まむと、口の中に放り投げた。
「シャルルの嬢ちゃん、遅れてすまないね」
雑踏から逃れてこちらのテーブルにやって来たのは、腰に剣をぶら下げた身長差のある2人組の男であった。
「いいよいいよ、問題ナッシング」
この最後に現れた2人を観察してみる。
ギルドマークが見当たらないので傭兵ギルドには属さない、流れの賞金稼ぎと言ったところか。ここへは今後の実績作りに来ているのか、ただ単に暇潰しに来ているのかもしれない。
しかし喋ったほうの隣の奴、若いのに良く鍛え上げているな。身長はシグナと変わらないぐらいであるが露出が多い服装で筋肉ムキムキなため、実際より大きく見えてしまう。
そして挨拶をした声が高く結構年齢がいってそうな男は、対照的に露出が殆ど無く指先まで隠れる大きめな上着に袖を通している。剣を持ってはいるが、こちらは恐らく魔道士であろう。
「わしはハイスと申す。これはダクタイルじゃ、皆さんよろしくな」
「んじゃ」とその場に立ち上がるシャルル。
「取り合えず時間も過ぎてるし、報告会&作戦会議を始めますか」
そう言えばシャルルの同僚の博士君が見当たらないが、任務中なのかな?
しかしこの面子は異様だな。
シャルルが周りを気にせず発言しているだけでも目立つのに、パラディンの姿がそれを数倍の物へと増幅させている。
そしてこちらのテーブルを見ようものなら、即座にユアンが殺気を放ち威嚇をし、加えて何が可笑しいのか理解出来ないが、時折「ウケケケケ」と小声で微笑を浮かべるハイスとか言うオジさん。
うげっ、考えたらシグナもこの異様な集団の1人として見られているのでは?
知り合いにだけには絶対見られたくないです。
「じゃ情報交換会はこれぐらいにして、実はこれから皆さんへ報告する事があります。それはななな、なんと、じゃじゃーん、あの鑑識魔法を使う許可を取得しちゃいました。はい、皆さん拍手」
シャルルとパラディンだけが拍手をしている。
なにこの冷めた空間。
温かいかぼちゃスープが飲みたい。
「なので、今回から仮にストームと遭遇したとしてもまずは逃げちゃって下さい。そのあと皆で対策を練りながら鑑識魔法で追跡して、フルボッコにしちゃいますから」
シャルルはおもむろに袋の中に手を突っ込むと、中に入っていた個々に違う色をした花火の筒を全員に渡していく。
「ストームと思しき不審者を発見したときはこれを打ち上げて知らせてね。集合場所はその花火の打ち上げ場所で、仮に見失ってしまった場合は一旦この酒場に戻って来るように」
説明は以上、と話を締めくくるシャルル。
「ところでシャルルの嬢ちゃん、見ない顔が二つありますねぇ」
ハイスの質問に、シャルルは姉御と魔竜殺しのシグシグと紹介する。
だからあんまり、特にこんなどこの馬の骨とも分からない人の前ではその呼び名は控えて欲しいのだが。
ハイスと目が会う。するといやらしい笑みでこちらに会釈してきた。
このパターンは、面倒臭いことになりそうだ。
その後、シャルルは既に警備に当たっている博士君と合流するらしく、他のメンバーは各々の決められた持ち場に向かい、城下町へと散らばっていった。
そしてまだ店内に残っているのは、シグナと賞金首稼ぎ風のデコボコ2人組である。
「なんじゃ、あんた双頭の魔竜殺しなんだってな? 良ければわしら2人と、ちょいと決闘してくれませんかね? 」
「嫌だと言ったら? 」
「わしらから逃げ出したという話がレギザイール中に流れるだけじゃろう」
普通決闘と言えばタイマンなんだが、よくも2人と闘えと言えたもんだ。
それだけ魔竜殺しの字が強力と言う事でもあるのだが。
「わかった、場所を変えるぞ」
そして二人を引き連れ店の出入り口に向かっていると、入り口から入ってきた微風に乗りほんのり甘い香りが届く。
そこにはポンチョを羽織り弓を携えた一人の女性がいた。腰近くまである緑色の髪を大きく後ろでまとめたその女性は、キョロキョロと店内を見回している。
たしかパラディンとか言う奴が遅れてくる奴がいるとか言っていたな。胸元には奴と同じバレヘル連合のギルドマークが付いているので間違いないだろう。
「もしかしてパラディンを探しているのか? 」
「あ~はいっ、もう出られた後とかですか? 」
「あぁ、つい今しがた出ていったところだよ」
ん? なんか優しそうだった表情が急速に感情のない顔つきに変わった気がするが。
「ほんとですか、どうもありがとうございました」
女性はなんだか感情のこもっていない御礼の言葉を述べ頭を下げると、踵を返して店を後にした。
何だったんだ今のは? まあいい、こちらはさっさと用事を済ますか。
外へ出ると陽は完全に沈んでおり、等間隔に設置された街頭のランプが、人通りがまばらになった城下町を爛々と照らしていた。




