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刀剣コレクター、下の下

 互いの剣を何度も交える。

 その都度、鋼と鋼がぶつかり合う金属音が鳴り、互いの剣にダメージが蓄積されていく。

 しかしこの俺が、真っ向勝負で押されているとは!


 くっ!


 俺が剣を振った後、その剣を身体に引き寄せる一瞬の隙を突き、奴が強引に体を潜り込ませてきた!

 そして奴の握る剣が、俺の顔面に迫ってくる!

 俺は歯を食いしばり上体を仰け反らせる。

 そこへ顔面スレスレを剣が通り過ぎ、ボッと音を立てその空間の空気が削り取られた。


 これはーー、見解を改めなければならないな。

 実は最初、奴とレギザ兵との闘いを少し見てたのだが、その時の奴の印象はの剣であった。しかしそれはまやかしであった事が、剣を交え分かった。


 今の奴は、一振り一振りが必殺の一撃となっている。

 魔力を消費してしまっている俺では、その暴れ馬のような一撃を食らえば即負けが確定する程の、大ダメージをうけてしまうのは目に見えている。


 ーーだがしかし。

 命の危険があるからこそ、こうやって殺りあう面白味が増すってもんだ。


 俺は奴がグイグイ詰めて来ようとするところを剣で応戦する中、時には身を引き剣撃での攻撃が届く間合いから更に半歩分をあける状態を、意図して作るようにしていた。

 その半歩離れた間合いとは、奴の間合い外でありーー。


 その時、奴の身体が一瞬にして大きくなった!


 また超接近を許してしまったか!

 上段からの振り下ろしで迫る剣を受けるが、よろけてしまう。そこに連続の斬り上げが迫る。

 俺はそれを、半歩下がりなんとか紙一重で避けると同時に、こちらも反撃の剣を振るう!

 しかし半歩下がっていたために、そのまま剣を振っても俺の剣の軌道線上には奴がいない。


 だが、それでいいのだ。

 軌道線上では無くても、その少し先に奴がいるならそこはまだ、俺と三日月の間合いの中であるから。


 俺は構わず三日月を使い、空間すら斬り裂くような鋭い斬撃を放ってみせる。

 そして、ガラ空きとなっている奴の露出した土手っ腹に、線のような赤い傷がピシッと刻まれた。


 さあ、どうする?


 この三日月ミカヅキを言葉で表すなら、獲物を探し求め、見つけると吸い寄せるようにして引き寄せ斬る『飢えた剣』。

 そしてもう一つの顔が、『妖気を纏った剣』である。


 妖気を纏うと言われる所以は、その美しい刀身にあやしい気配を宿らせている事に他ならない。

 まぁ実際に妖気を目にする事は出来ないが、得体の知れない何かを感じ取る事は俺でも出来る。

 次に普通獲物を斬ると刃こぼれをしないまでも、多かれ少なかれ刃に脂が付着するものなんだが、こいつにはそれが全く起こらないため斬れ味が落ちない。

 その事からも、三日月ミカヅキは実際に刀身から何かが出ており、それはコーティングされたような状態で覆っているため脂が付かないのではと、俺は考えている。


 そして更にその何かーー、妖気は飛ばせる(・・・・)。と言ってもその距離、僅か一歩分の距離と短いが。

 しかし魔力なしで使えるのは優秀だと思うし、同等の力を持つ者同士だとその僅か一歩分であっても、それが有るのと無いのとでは結果が大きく違ってくるだろう。


 まぁつまり、簡単に言うと剣と剣を交える合間に虚空を裂くように斬りつければ、飛んだ剣筋、妖気によって相手はザクザクと斬られてしまうってわけだ。


 こんな風に!


 剣を逆袈裟斬り、下から斜め上へと向け振るう。


 そして飛ばした妖気が、奴の無防備な左の太腿剣に迫り、またその柔肌に傷をーー。


 ……ん?

 気のせいか?


 次は剣を右から左へ振る。

 すると仁王立ちになっていたケトルマンが、半身になり両腕はくの字に曲げ片脚は爪先だけを地に付けた、なんだか歩く途中のようなポージングを決め静止した。


 ……どうしたと言うんだ?

 奴のポージングもそうなんだが、それじゃない!

 妖気が飛んでいっているはずなのに、ケトルマンに新たな傷が出来ていない。


 どういう事だ!


 手首を返し、更に剣で虚空を左から右へ振ろうとするが、瞬時に詰めてきたケトルマンにより剣で受け止められてしまう。


 ちっ!

 仕切り直しのために大きくバックステップをする。そして追いすがってきたらいつでも攻撃に移れるように気を張り詰めたのだが、ケトルマンがその場に足を止めていたためにそれは徒労に終わった。


 ……それより邪魔だな。


 遠巻きにこの闘いを見ていた兵士達との距離が近付いてしまっていたので、そいつらに向け睨みを効かせると、俺を避けるようにしてその輪が広がる。


 しかし三日月の突然の不調。

 これって、妖気が飛ばなくなったのか!?

 よく見えるように三日月を顔に近付けると、目を細めじっくりと眺めていく。


 大きな傷もなく、おかしな箇所はなさそうなんだが。

 一体なにがーー。


「その剣に異常はない」


 ケトルマンであった。

 奴は堂々とした佇まいでこちらを見ている。そして続ける。


「私がその細くて見えない、つぶてを受け止めたのだ」


 礫?

 奴ははっきりと飛んで来ている物を理解していないようだ。

 ……しかし、妖気を防いだのは事実のようだし。


 俺は確かめるため、地面に向け三日月を振る。すると石畳にビシッと亀裂が入った。


 奴が言うように、剣に異常はないようだ。

 しかしそれならどうやったんだ?

 くそっ、こちらの攻撃が封じられただけでなく、奴は未知なる能力の片鱗を見せてきやがった。


 ーーいや、もしかしたら多少のハッタリをかましているだけで、何度も攻撃すればボロが出る可能性があるじゃないか!


 そう思い臨戦態勢に入ろうとした時、俺は咄嗟に息を止めた。

 それは奴が、顔はこちらへ向けたまま、黒のブーメランパンツを食い込ませた臀部でんぶをこちらに向けたから。そして奴は、そこから臀部の肉を中央に寄せ、尻の穴も閉めてみせた。


 今ここで、何が起こっているのだ?

 混乱する中、俺はかろうじて声を上げた。


「あんた、それは? 」

「これは筋肉白刃取りだ。あの日以外は使える、私の奥義。そしてこの奥義、身体の至る所で使える」


 つっ、つまりなんだ?

 筋肉を締める事により、飛ばした妖気を挟み込んで止めたとでも良いたいのか?


 で、出鱈目だ!

 そんな事で、この三日月の妖気が止められてしまっていたのか!?

 しかもネタをばらすなど敵に塩を送るようなもの。それにネーミングがカッコ悪いし、わざわざ臀部を見せての解説など聞きたくなかった。

 そしてあの日とは、一体どの日の事なんだ!?


「はっはっはっーー」


 そこでケトルマンが鷹揚な笑い声を上げた。そしてひとしきり笑った後、そのまま語り始める。


「ギリギルよ、私は多忙なのだ。手短ですまぬが、そろそろ決着をつけよう」


 ……ハハァン!

 なんかあんた、一周回ってカッコ良く見えてきたよ。


「いいぜ、わかった。……ここからはノンストップでバトルだ! 」




カクヨムで、この作品の修正版を載せております。

タイトルは『格好いい二つ名に、憧れちゃダメですか? 』となっており、タイトルに沿うよう若干会話が変わってたりしますデス。


今後そちらのほうはチョコチョコとエピソードを追加するかもしれませんが、良ければそちらも見て頂けると嬉しいですデス。


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