刀剣コレクター、下
短くてすみません。
m(_ _)m
ゲートに突っ込んだ手の平に、吸い寄せられるようにして硬いものが当たった。
お前も待ちきれないのか。
そいつを握り込み禍々しい空間から一気に引きずり出すと、妖気を引き連れ一振りの大太刀が、この場にいる奴らにその姿を見せつけた。
そして大太刀は、まるで月光を浴び歓喜をするかのように手の中で震えている。
こいつは刀匠ムラマサの傑作中の傑作と言われる物で、刀身のフォルム、また刃縁に沿って続く打ちのけがあたかも三日月のように見えることから銘を付けられた『村正三日月』。
そしてこいつにももう一つの銘がある。
そいつは、魔竜長剣三日月。
今から六百年程前の話。
レギザとイールの北東に位置する連合諸国郡に属するレート王国、グラシア王国、そしてレバーツ王国にその裾野を伸ばすチョコレ火山に、悪しき竜魔竜黒結界が棲みついた。
その災いを撒き散らす魔竜を討伐するため、各国からなる精鋭部隊が編成され見事討ち滅ぼしたのだが、その時にトドメをさしたゼルガルドの者が手にしていた大剣が、『魔獣切千子』と名付けられる五大秘宝刀に選ばれる程の名刀であった。
魔獣切千子は連続して千人を斬れる程の斬れ味と耐久性を兼ね備えていたとされたのだが、その時の権力者の戯れで二つに分けられてしまう。
そして分けられた刀身の半分を隠居生活を送っていたマサムネ、もう半分を若き鬼才として頭角を現していたムラマサに、それぞれ魔竜の部位と共に渡された。
マサムネが正道を進んだとするなら、邪道を磨き続けたと囁かれるのがムラマサだ。
二人は刀身を炉に入れ一から作り直すところから製作したのだが、センゴは斬れ味を追求し、そしてこいつを完成させた。
この刀の切れ味の凄さを象徴する出来事として、時の所有者が周囲を囲まれた際、甲冑を着込んだ六人の兵士を一振りで斬り殺した事があると語られている。
結局当時、この二振りは相まみえる事が実現しなかったのだが、そいつが今まさにここで、盾と矛の話ではないが攻めを追求して作られた剣と、守りを念頭に鍛えに鍛えた剣との勝負が実現させ、一つの答えを世に出そうとしている。
剣を構え間合いを少しずつ狭め始めていくと、そこでケトルマンから声が掛かる。
「そう言えばまだ、私の望みを言ってなかったな」
「ハハァン、焼くなり煮るなり好きにしな」
「いさぎよいな」
「俺にとってこの闘いは、それだけの値打ちもんっつー事なんだよ」
「そうか。しかしこの闘いのおかげで、久方ぶりにーー」
話を続けながら構えを取ったケトルマンから、溢れ出すオーラ量が跳ね上がる。
「ーーこのワクワク感を思い出させて貰ったよ」
その闘気はまるで、砂浜で足へ波寄せる海水のようにゆっくりとだがズッシリと、何度も何度も身体の芯まで押し寄せてくる。
こいつ、人の形をしたバケモンかよ。
……ハハァン、やっぱ最高だぜあんた!
というわけで、このお話はもう一話あります。
 




