刀剣コレクター、中
俺の前にズラリと並ぶ、どれも一級品の刀が三本。石畳に突き立つ刀身は、月光を浴び各々の個性ある姿を曝け出している。
さて、奴はどれを選ぶ?
一番左でひっそりと、月光は勿論全ての光をその刀身に吸収し続けている黒刀は、伝説上の人物、刀匠アマクニの作と噂される一振り、『真魔の断ち、前鬼』。
こいつは突きに特化した両刃の細剣で、国宝級の超レア品。そしてこいつも、魔力消費なしで特殊能力を有する。その能力とは、魔力への直接攻撃である。
こいつの斬撃は肉体と共にオーラも斬るとされ、斬られた相手は僅かであるが強制的に魔力を削られ、消費させられた状態になる。すなわち、脳筋状態が強制解除される事を意味し、そこでついた別名が、脳筋殺し。
また伝承では『真魔の断ち、後鬼』と言うのがあり、この双剣を有する者は天下を取るとまで言われてるのだが、こいつの行方は誰も知らない。
前鬼とは打って変わって真ん中でギラギラと輝きを放つ、片刃で肉厚の特大剣は、新鋭の刀匠ナガレの会心の傑作『骨喰い二型』だ。
その重さゆえ持つものを選ぶこいつは、対面し斬る真似をするだけで剣や盾はもちろん、その先にある敵の骨まで砕くほどの凄まじい破壊力であると謳われる一振りだ。
まー、こいつを自由自在に扱える奴はそうそういないだろうし、まして使えても振り下ろした刃を相手に当てる前に止めるなんて出来る奴はいねーだろうから、ようは下ろしたら最後、その下にいた相手はこいつの餌食になるって事だろう。
そして特筆に値する点がもう一点、こいつは単に破壊力があるだけでなく、斬れ味も鋭い。
有名な話ではナガレの作業場に侵入した盗人が、つまずいて倒れた所に運悪くこの特大剣が刃を上にして置かれており、盗人は触れた胴のあたりから上下真っ二つになり、絶命していたそうだ。
そして最後の一振りは、正統として名高い刀匠マサムネが鍛えた片刃の直剣。
マサムネの作品には同じくマサムネと言う銘が付けられるが、この銘以上に有名な刀は無いだろう。刀身の地金や刃紋に浮かび上がる金筋、筋金など、変化に富んだ様々な模様が最大の特徴で、刀匠マサムネが脚光を浴びて以降、マサムネ一派はその後の刀剣制作において、多大な影響と功績を残し続けている。
レギザイール軍の刀剣には、全てマサムネ一派の作品が採用され続けている。
そこでケトルマンが口を開く。
「ギリギルよ、本当にこれ程の剣をくれるのか? 後からお金とか、請求されないだろうな? 」
「なっ、馬鹿野郎! 金は取らねーけど、そいつは貸すだけだからな! 今だけだ、そこんとこを勘違いすんな! 」
するとケトルマンから迸る嬉々としたオーラが、静かな、だが暖かさを孕んだ物へと変質する。
「そうか。なら、私はこれで十分だ」
そう言うと、ケトルマンは自身が手にしている剣を掲げた。
バカな、その剣ではこれから先、俺と遊べないじゃーー。
そこで気がつく。
奴の剣、ガタがきているどころか、刃こぼれ一つねーんじゃねえのか? あの衝撃で、しかもその前にはレギザの兵隊達とやり合ってたと言うのに。
奴の剣、見れば見るほど、輝きもそこそこで特徴がない普通の剣。それで剣にダメージがないとなると奴の腕が半端ない事になるがーー。
いや、この俺が一級品である被雷刀神風を扱ってる時点で、相手も同等の条件でないとやはりおかしい。
しかしそうなると、あの剣はいったい?
「あんた、……その剣に銘はあるのか? 」
「ぬぬ、これか? 覚えにくい名前で忘れたが、くれた奴はマサムネのなんとか言ってたがーー」
ケトルマンはそう言い腕を組むと、記憶を探るように小首を左右に倒し始める。
しかしマサムネ作か。どれも良品である事は間違いないが、……奴のそれは、その中でも上質の物、という事か。
そこでケトルマンが何かを思い出したかのように「ああー」と呟く。
「そう言えば、こいつには真打って刻まれていたな」
真打ち?
マサムネで……真打ち、だと!
マサムネで真打ちと言えば、マサムネ本人が生涯最後に鍛えたとされる『正宗型破り真打しかない。
そしてそいつの別名は、ーー『魔竜長剣型破り真打』。
心底、笑みが零れる。
まさか、こんなところでそいつに出会えるとは。
そいつが相手なら、俺も本気を出せる。
いや、そいつの相手はこいつしかいない、だな。
俺は新たにゲートを開くと、禍々しい空気を放つその穴の中に、片腕を突っ込んだ。
 




