刀剣コレクター、上
◆ ◆ ◆
手元から視線を離しケトルマンへと移すと、奴が我が愛刀を凝視しているよう感じた。
さては、こいつの透き通るような美しさに見惚れているな? そうだろうそうだろう、……しょうがねぇーな。
「こいつの名は被雷刀神風」
刀身が見えやすいよう、横に倒した状態で腕を前へ突き出してやる。
「偽銘が多く出回ってる事で有名な、魔具の刀匠ナガソネ作だ。……そしてこれが見えるか? 」
手を添え切っ先を前へ向ける。
「こいつは雨宿りをしていた魔具の刀匠ナガソネが、落雷をその身に受け下半身不随と言う重症を負った時に差していた剣でな、切っ先から広がる淡い金色が雷を受けた際に変色した部分だと言う。そしてそいつをナガソネ本人が打ち直し魔具として生まれ変わらせたのだが、この片刃の剣は魔力を消費せずとも剣速が上がる、奇跡の一振りだ」
そして視線をケトルマンへと戻すと、奴の微細な変化も見逃さないよう集中力を高めていく。
周りの兵隊達の息遣いが聞こえる中ーー。
「いざ尋常に、勝負! 」
石畳を蹴り間合いを詰め、互いの間合いへ一気に踏み込む!
そして上段に構えてからの振り下ろし!
空間を切り裂く程の太刀筋、をケトルマンは後方へ僅かに擦れ避けた。
がまだまだ!
そこからの右へ左への連撃!
ほぉぅ。奴は攻撃を防ぐ事なく、まるで舞い落ちる木の葉のようにゆらりゆらりと躱して行く。
「おおお、早いな」
ケトルマンが感嘆の声を上げた。
しかしこいつ、このスピードに剣を交える事なく、体捌きのみで凌げるのか!?
おもしれーな!
冥土の土産に被雷刀神風の本当の力を見せてやるぜ!
一度間合いをあけ、刀を逆手に持つとゲートを開いた左の手の平に向け突き刺す。そうして異空間内で鞘に収まった刀を右手一本で引き抜くと、纏わりついた異空間の空気を払うようにして刀を振った後に、左手で鞘を掴み右手で封をするかのように柄の部分に置いた。
そう、居合斬りの構えだ。
すると奴は剣を上方へ立て左脚を前にして半身になり、脇を締めぶっとい両腕で巻き込むようにして剣を握った。
なんだ?
足元がお留守じゃねーか。
誘ってんのか?
おもしれー、乗ってやるよ。
しかし並みの攻撃と思ってたら、てめーの両足は膝から下が無くなるぜ!
「ハハァン」
神速の刃を刻み、果てな!
そして刀に魔力を流し込む。鞘の中だから奴は分からないだろうが、刀身は人知れず薄っすらと輝きを放ってる。
ケトルマンを見据える。奴は依然として剣を立てにして構えている。
……まぁいい、ここからはマジだ。
呼吸と共に雑念を捨てていく。すると奴の心臓の音を耳が拾い始めた。
そして間合いを少しずつ縮めていきーー、刃を抜く!
刀身の一部が雷と化し形状をあやふやとする中、飛び出した神速の刃が奴の両足首に迫りーー。
『ギィャン! 』
奴の剣に防がれていた。
バッ、バカな!
しかも左腕一本でこの衝撃に耐え、完全に止めただと!
くそっ!
『ギィィン』
刃を振り抜く要領で力を込め、奴の剣と交わる所を支点にして押す事により後方へ飛び退く。
たしか奴は、こちらの抜刀を見てから動いていたが。……そうか、奴は普通に体全体を使い剣を振れば間に合わないものだから、土台となる体は筋肉で締める事で固定をし、腕だけを動かしたのだ。そしてその過程で、右腕は剣を下に押し出すようにして離した。
筋肉ダルマのただの脳筋なのかと思いきや、技術も半端ない……。
こいつは真の一流だ。
「あんた、最高だな」
「ギリギルとやら、お前もやるな」
その時気付く、被雷刀神風が悲鳴を上げている事に。
これ以上は無理か。
まぁあの衝撃じゃ無理もねーか。
ちゃんとメンテナンスしてやるから、そんなに怒んなよ。いつも感謝してんだから。
しかしおそらく奴の剣も同じ状態なんだろうな。
素直に思ってしまった、勿体ねーと。
「……ハハァン」
思わず笑い声が漏れ、それを慌てて飲み込む。そして平静を装いながら、ゲートを開き被雷刀神風を収納すると、そのまま手の平を下に向け、ズズズッと一本ずつ刀を取り出していく。そうして三本の刀が切っ先を下にして石畳に突き刺さる形で並んだ。
そして俺は、感情の高揚を抑えながら、クールに口を開く。
「この中から一本、好きなのを選びな」




