必殺剣一刀両断、上
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こいつはすげーな。
第三分隊が賊に襲われていると連絡が入り、部下達を引き連れ駆けつけたわけなんだが、驚きのあまり咥えている煙草を落としそうになってしまった。それ程まで異質な、今まで見た事もない光景が目の前に広がっていた。
そう、俺の目の前にはヤカン兜と黒のブリーフしか身につけていない裸の爺さんがいるのだ。
そして剣を手にしている爺さんの周辺には、多くの兵士達が地べたに転がっている。
倒れた者達の生死を遠目から確認してみるが、鎖骨が折られたりはしているようだが、命に関わる傷を負っている者はいなさそうだ。
これなら回復魔法で治療を受けさえすれば、戦線復帰出来るだろう。
今の軍は度重なる欠員で以前より入隊が容易になっている。そのため新兵が軍を占める割合は決して少なくない。
ウチの隊も灼熱赤竜との激戦に参加した際、多くの尊い命を失った。今では百名近い隊員のその殆どが、負傷兵かヒヨッコどもと言った具合だ。
そしてこの場に転がっている兵士達もその殆どが新兵なのだが、そうとは言えこの人数を倒すのは普通の腕では至難の技である事は間違いない。
それを、この腰が曲がった老人が、一人でやってのけたと言うのか?
「隊長、これはいったい? 」
俺の後についてきていた新兵の一人が声を上げた。
視線をもう一度爺さんに合わす。よくよく見れば、夥しい量のオーラが溢れている事が感じ取れる。
常人じゃねぇな。
どうやらあの爺さんがやったで間違いなさそうだ。そしてこいつらではあの爺さん、……怪物の相手は務まらないだろう。
「お前らは手を出すな。あと倒れている奴らに手を貸してやれ」
ごく稀に人でありながら常人を凌駕する力を持つ存在がいる。この爺さんは、その怪物という名の枠に入った存在ってわけだ。
だがそんな事は俺には関係ねぇ。
俺はヨムビト=ユウイ。俺もまた、怪物と呼ばれた男だからだ。
俺は十四年前のレギザとダイセンとの戦争時、ドトール王国の特殊部隊ELDERに所属し、当時の仲間達と終戦までレギザと共に闘った。戦争が終結した後はレギザにより組織が解体され、多くの者がレギザの兵隊となる中、殺ししか出来なかった俺は、他の奴ら同様軍に入隊する事となった。
14年か。
だいぶ年をとってしまったな。しかし鍛錬を怠った日はないため、体の状態はあの頃と比べてもさして遜色はないだろう。
俺は前方に構えた盾の隙間から爺さんを見据えながら、ジリジリと間合いを詰めていく。
そしてあと数歩で互いの間合いに入ると言うところで、爺さんが両手で剣を握りこみスッと上段の構えをとった。
まずは盾で防ぐべきか?
いや、爺さんだからといって恐らく脳筋である奴の攻撃を下手に盾で受けてしまえば、反撃に移れずに続けての攻撃を許すばかりか、最悪俺の体勢が崩される可能性だってある。
それならこちらは人数がいる事を考慮し、爺さんの攻撃に合わせて俺も剣を振り、互いの武器にダメージを蓄積させていったほうがいいだろう。そうしていけば、仮に突破口が見つからなくても、いつかは相手の武器を破壊出来る可能性が出てくるからな。
仮に俺のが使えなくなったとしても、部下達から借りれば済む話。
俺は盾を捨てると、爺さんと同じく剣を両手で握りしめ上段の構えをとる。それと念には念だ、リミッターも外しておくか。
俺の瞳が青白く冷たい光を帯びる事に伴い、剣の重量が紙くずのような物へと変わる。
そして互いの間合いに入った。俺は何度か殺気を飛ばし、相手の出方を伺った。
しかし爺さんは打ってこない。
もしかして爺さんの剣技、受けの型なのか?
……ならいい。めんどくせえ、俺からいってやるよ!
殺気や視線、剣先でのフェイントを織り交ぜながら、相手に対し揺さぶりをかける。
そしてピリピリとした空気が支配する中、爺さんの頭を狙い、俺は渾身の一撃を振り下ろした!




