迷い猫ミケ?
闇が支配する街の四方八方から、シャリシャリシャリと鎧が擦れる音と、ブーツで石畳を駆け走る音が耳へと届く。
私は今、民家と民家の間の細い路地の物陰に身を潜めている。そしてここから下手に動けないでいた。それは無理にこの一帯から出ようとすると、高確率で危険が付きまとうから。
まぁ〜、疲れも溜まってきていたので、このさい気配を消してくつろぐ事にしてたりするんだけど。
しかし時折聞こえる剣と剣とがぶつかり合う金属音と怒号、これはどう考えてもただの演習ではなく、どうやらレギザイール軍にケンカを売る奴らがいるようである。
至る所でケトルマンを見つけた、なんて声が聞こえてきてるんだけど、噂の裸にヤカン兜と言うケトルマンスタイルの奴らが街中で軍とやり合ってるならば、考えるまでもなく正気ではない。
正気ではないと言えば、先程のあのイカれた男達。あいつらもこの地区にいるのであろう。でも気配からして戦闘や走り回ってるケトルマンとは違う気がする。
その根拠の殆どが勘によるものであるんだけど。
しかし暴れ回っているケトルマン達、かなり離れているはずなのに、かなりの闘気を辺りにばら撒いているようでここにまでそれが伝わってきている。その事から暴れている奴らの殆どがガチガチの脳筋で間違いないだろう。
そんな感じで意識を色んなところに集中させて情報収集をしていた時ーー。
「お疲れ! 」
突然声がかかった、それもすぐ間近からで、しかも後方などの死角からではなく真正面からであった。
そして目線を上げると、そこには老人が立っていた。その老人は裸にヤカン兜と言う変態、そうケトルマンスタイルであったが。
「なにかと思えば迷い猫かぁ! 」
年老いているが張りのある声が響く。そしてこの腰が曲がった老人、今こうして見ているぶんにはとめどないオーラを身に纏っているように見える。しかしそんな一目見てわかるぐらいの存在感のある人物のはずなのに、視界から外れると気配が消失するような気がする、そんな不思議な存在であった。
「ここらはこれから戦場になる。巻き沿いを食らいたくなければ、もう少し頭を引っ込めておれ! 」
助言?
どうやら悪い人ではないみたいだけどこのおじいちゃん、剣を手にしている事から戦闘要員のようであるようなんですけど。
果たしてその細い身体で戦えるのか? しかしそれを補ってしまいそうな程のオーラ量もありそうだし。
判断が難しい老人である。
他にもケトルマンがいるみたいだし、この老人はさしずめ老ケトルマンと言ったところだろうか。
「それとそんな強烈な視線をばら撒き続けておれば、ワシクラスになると見つけるのも容易い。周囲を検索するのはやめて隠れる事に専念するがよい! 」
「そう言われても、相手の位置がわからないとバッタリなんてあって、危険でしょ? 」
「……それもそうじゃな。ワシクラスはそうそうおらんがーー」
そう言うと考え込み始める。
そして老ケトルマンのオーラが感じ取りやすくなったかと思ったのだが、次の瞬間にはその気配が辺りに馴染んでいきだす。
するとまた気配が虚ろなものとなってしまう。
「このように出来ればよいのだが、修行を積んでも向き不向きがあるゆえ習得できんもんもおる。ましてや脳筋でもないオーラ量が少ないお主にはこのようにするのは更に難しい話」
なるほど、今のを見てなんとなく原理は分かった!
要は身体を纏う魔力、オーラの一番外側を引き延ばすようにして薄くして空気と馴染ませていたら、気配を読まれ辛くなるって事よね?
こんな感じかな?
「まぁ二、三時間後にはここらから出られるはずじゃし、運にーー」
キープするのはまだまだ難しいけど、練習すればいけそうかもしんない。
「ほぉぉう、おおごとおおごと」
老ケトルマンが感嘆の声を漏らし、続ける。
「わしのを見て盗むとは、……会って勉強になったろ? 」
たしかにこの技術があればーー、ってさっきの不気味な男達もこれをやってたんじゃないかな?
「ためになったろ? 」
再度声が聞こえた。
老ケトルマンからだった。もしかしてこのおじいちゃん、欲しがり屋さんだったりするわけ?
「少しはためにーー」
「えぇ、凄くわかりやすい説明でした! ありがとうございます」
すこし大袈裟にお礼の言葉を述べてみると、老ケトルマンは恥ずかしそうに『おおぅ』と低く唸り身体をくねらせた。
変態な姿だけど、なんか少しだけ可愛いかも。
そしてその老ケトルマンは、突然何事も無かったかのようにして背を向けるとこの場を立ち去ってしまった。
変なおじいちゃん。
でもいい事知っちゃった。
ちょうどここから動けない状態だし、じっくりこの気配を悟られなくする術の練習でもするとしますか〜。




