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男達の井戸端会議

 私がむざむざと見失ってしまうだなんて。

 屋根から飛び降り音をたてずに石畳の地面に降り立つと、男がいた場所へとこれまた足音を立てないようにゆっくりと進んでいく。


 やはり勘付かれたのかな?

 そこでハッと気付く。

 思わず熱くなってここまで来てしまったけれど、逆の立場ならどうだろう?

 私が追われる事に気付いたなら、敵を誘い出して排除、もしくは最低でもどこの誰かは確認をしようとする。それをあのフード男がおこなっていたら!

 くっ、こんな凡ミスをするだなんて、酔いがまだ完全に抜けきってないようだ。


 私はサッと建物の壁に背を預け聞き耳を立てると、アンテナを張り周囲を探る。

 そして微かな視線を感じ、見上げ、捉えた!

 遠い建物の屋根上から、気配を消しこちらを見下ろしている男の姿を。


 ダラダラと汗が滲み出てくる。

 完全にやってしまった。

 私はフード男と睨み合いながらも隙を伺い、ジリジリと後退も始める。しかし男は、何をするでもなく先程と同じようにこちらを見るばかりであった。

 取り敢えずこのままでは駄目だ。距離を離して相手の索敵から逃れ、さらにこちらから一方的に気配を感じ取れる位置にまでいかなければ。


 そうこうしていると不意に気づく!

 男の隣に、長身の男が立っている事に。その男は、若いと言われれば若く見えるし、年をとっていると言われれば年をとっているように見える、そんな年齢不詳なボサボサ頭の男がフード男の隣に立っていた。

 そしてボサボサ頭は、フード男に向かって気だるそうに口を開く。


「やあ、こんなところにいたのかい」


 その時嫌な予感がした!

 そしてボサボサ頭はおもむろに、フード男の視線の先、私の方へと視線を移した。

 鋭い視線が降り注ぐ。

 しかしその寸前、私は物陰に隠れる事に成功していた。


「……見つめる先に何があると言うんだい? それとも一般人には見えない何かが見えてるのかい? 」


 心臓が今になって身体を震わすほど大きく動く中、ボサボサ頭の突き刺さるような視線がなくなったため、張り詰めていた緊張が和らいでいく。

 しかし壁越しに依然としてフード男の視線を感じるため、下手にこの場から動けない。

 今は息を殺し、男達の動向を伺うしか出来ないようだ。


「しかし鬼の教官と恐れられたドグマさんが、今はこんな姿だとはねぇ」


 ボサボサ頭のこの話し方、ニュアンスからしてフード男の事を言っているようだが。


「まっ、人格はぶっ壊れちまったが、命令は聞き分けられるわけだし、これはこれでいーんじゃねぇ? 」


 突然の新たな声だった!

 若い男の声。

 場所はあの男達の直ぐ近くから。

 足音が聞きとれなかったけど、ボサボサ頭と同じように気配を完全に絶って現れた。


「やぁギリギル。……その様子だと実験は完璧に成功したみたいだね」

「ハハァン、わかるか? ワクワクが止まらないぜ! なんてったってこれからは大切なコレクションを置いていかなくて済むわけだからな」

「ーーアガイのほうはどうだった? 」

「あいつはダメだ、廃人になっちまいやがったから処分だそうだ。ーーそうそう、鈴守人なんだが、なんかつねに血を垂れ流してるが使えんのか? 」

「見た目は変わったけど、個々の威力や世界の範囲と色々と検証した結果、能力的には前と変わらないとお墨付きだ。それよりベルがおっ死んだ後、エジサイールの街に向かった奴等が帰ってきてないほうが気になるね」


 その時、殺気でビシビシと空気が震え始める。


「あぁあ? 姉貴はやられてねーよ」


 若い男の怒気を隠そうとしない発言。しかしそれを受けてもボサボサ頭の気配は水面に波紋が広がるような、ただただ受け流してしまっているようで特段変化は見られない。


「しかしドグマさんに鈴守人が移った以上、死んだとみて間違いないだろ? 」

「その鈴守人の中に、姉貴っぽいのがいねーだろうが」


 その時、ボサボサ頭から殺気がだだ漏れを始める。


「あぁぁ、メンドクセー奴だな。今後建設的な会話が出来ないようなら、食卓に並べるぞ? 」

「ハハァン、拷問専門のシェフの分際で、今の俺に勝てるつもりか? 」


 一触即発とはこの事を言うのだろう。何かキッカケがあれば、すぐにでも斬り合いが始まりそうな、そんなピリピリとした空気が出来上がっていた。

 しかし不意にボサボサ頭の方から殺気が消え失せてしまう。


「おっと、そろそろ時間だ。作戦をトチって親父を怒らせたら怖いからそろそろ行くよ。……どうかしたのかい? 」

「いや、相変わらず変な奴だなと思ってな。ーーそれより街に何人かケトルマンが出てきたんだろ? わりぃ、作戦まで待てそうにねぇ。しこたま血を見たい気分なんだ、いいだろ? 」


 盛大なため息が聞こえた。


「やれやれ、決行の時までにはまだ余裕があるからいいが、……任務は絶対。仮にお前が遅れたのが原因で失敗に終わったら、マジで活け造りにするからな」

「へへっ、大丈夫だから心配すんなって」


 そうして気配が一つ消えた。

 その後、ボリボリとボサボサ頭の男が頭をかく音を鳴らす。


「なんだかんだでいつも貧乏クジを引くんだよな。……それじゃまずは、顔合わせに移動するかい」


 ボサボサ頭の気配が消えると、続いてフード男の気配も消えた。


 ……やっと行った。

 それより、なんなのあいつら?

 そして今からこの街で、何が始まるっていうのよ?

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