自己紹介
「ぬおっ! 」
ジンさんが隙をついて、キョウゴさんのホールドからの脱出に成功しました。ちなみにキョウゴさんは薄ら笑いを浮かべた表情で固まり、また口をだらりと開け放心状態のため、さらなる追い打ちはないようです。
ただジンさんは心に傷をおってしまったようで、背中を向け壁にもたれかかると、力なく項垂れてしまっています。
「ジン、これで全員揃ったの? 」
メグミさんの問い掛けに、ジンさんは背中を見せたまま片手を上げてみせると、「進めてくれ」と元気なく言いました。
「じゃ時間もないことだし、チャチャッと自己紹介しましょうか」
メグミさんが背筋を伸ばし、スラリとした胸を張りました。
「私はメグミ=アスロード、知ってると思うけど凄い魔法使いよ。あとジンとは昔殺りやってからの仲。それでこっちはパラディン。私が頼りにしている相棒よ」
紹介と同時にメグミさんに『ぽん 』っと肩を叩かれました。そこで皆さんに向け、頭を下げます。
「みなさん、宜しくお願いします」
メグミさんが満足げに頷くと、一度視線を外し皆さんを見回し始めます。そして視線が一人の前で止まりました。
「じゃ、次はドワちゃんね。お願い」
メグミさんの指名を受けた頬に十字傷があるドワーフさんが、腕を組み壁に背中を預けたままで、切れ長の瞳をスッと開きます。
「オレはグドウーー」
渋みのある声が薄暗い部屋に響きました。
「でジンに股間を叩きつけよったのがキョウゴ。オレらはレギザイール軍を抜ける20年前まで、ジンと同じ釜の飯を食った仲間だ」
そう述べると、眉間にしわを寄せ瞳を閉じられました。
なんだか風格のある方ですね。
そして次に、ずっと椅子に座り微動だにしていなかった聖職者風の大男さんが、立ち上がり相席の優男さんが手にしてした分厚い本を上から取り上げるとパタンと閉じます。
「次は私たちですね。私はラパンキー。ジンとは違う隊でしたが、軍にいた当時、よく一緒にウチの隊も出撃させられては、回復役を押し付けられてましたよ」
このラパンキーという方、大柄な身体に似合わずしきりに身振り手振りで話し、それでいて結構高めの声でありながらも落ち着いた話し方と言うこともあり、どこか胡散臭い印象を漂わせる方であります。
「ーーでこちらが私の弟子、キタヴィラタ=ドクシャさんです。皆さん、彼の事はキタッチと呼んで上げて下さい」
ラパンキーさんからニッコリ笑顔で紹介された優男、キタッチさんは、軽く会釈をするとすぐにラパンキーさんの陰に隠れてしまいました。
そして自ずと、最後となったレジェンドさんに視線が集中します。
それに気付いたレジェンドさんが、カクカクとした動きで一歩前に歩み出ました。
「本名はグゥワーラじゃ。そしてワシがあのレジェンドじゃ! おおごと、おおごと、よろしく! 」
目をクワッと剥き、直角に曲げた右腕をそのままシャッと上げての挨拶。
しかしレジェンドと言う呼び名は隠語、それも悪い意味でのと思っていましたが、本人はそれを隠すどころか少し誇らしげにしているようであります。
それとなにが『おおごと』なのでしょうか? なにか深い意味があるのかもしれませんが、私にはサッパリであります。
「それじゃ、これから本題に入るわね」
メグミさんが進行を再開させました。
「皆に手紙で知らせた通り、ジンの危機が迫っているの。話せば長くなるから掻い摘んで話すけど、ジンがとある人物から呼び出されたの。その日とは今夜。んで、呼び出した人物とは、レギザイール軍第二師団長ドルフィーネ。ちなみにこの呼び出しは、ジンをハメようとしてるか、最悪その場で殺害を計画している可能性が高いと私達はみてるわ」
その話を聞いて、両眼を閉じていたドワーフ、グドウさんがカッと片目を見開くと、ジンさんの方に顎を傾けます。
「ジン、ドルフィーネって奴は、もしかしてあの陰険野郎の事か? 」
ジンさんは静かに頷きます。それを受けてグドウさんが静かに瞳を閉じると、少しだけ口元を笑みの形に変えました。
「だから待ち合わせ場所に行くのは危険なんだけどーー」
メグミさんです。
「実は私、前々からある人物の依頼で色々と黒い噂のあるドルフィーネの周辺をあらっていたの。そしてその依頼主とこの事を話し合った結果、こちらもそれに被せる形で行動する事に。それでこちらの目的はーー、第二師団長ドルフィーネの拉致。んで、みんなには拉致するまでを協力して貰いたいんだけど。……正直かなり危ない橋を渡る事になると思うのよね、それでもみんないい? 」
キョウゴさんが『はぁんっ』っと鼻で笑います。
「例えお尋ね者になろうとも、ジンの危機に何もしないなんて死よりも辛いわ。私はやるなと言われてもやるわよ。みんなもそうよね? 」
その言葉に、皆さん頷きで肯定をします。
私もメグミさんの頼みを断るつもりはありませんので、もちろん参加です。
「しかし大胆ですね」
ラパンキーさんです。そして続けます。
「それで具体的には私達は何を?」
「あーそれは簡単よ。ドルフィーネの奴、今夜街の大部分を閉鎖して夜間訓練を行うようなの。みんなはそこに乱入して騒ぐだけでいいから」
それを聞き、キョウゴさんがワナワナと震えだします。そしてその分厚い唇から震え声が漏れ始めます。
「騒ぐって、……もしかして祭りって事? 」
いつの間に完全復活していたのか、キョウゴさんが見上げる先には、腕組みをして仁王立ちのジンさんがいました。
「フフッ、ああ、久々の祭りだ」
その言葉でキョウゴさんのみならず、ここにいるメンバー全てが沸き立つのを私の肌が感じ取りました。




