レジェンドと凶戦士
部屋の中が強烈な闘気で充満していきます。またその闘気を身に受け続けていると、まるで生気を吸われてしまうかのような錯覚に陥ります。
何者が、そこにいるのでしょうか?
そして暗闇から姿を現したのはーー。
一本のショートソードを腰にぶら下げた、全体的に髪の量が少なく腰が曲がっている、この場に削ぐわぬ老人でありました。
その老人は、クパァッと口を開きます。
「よっ、お疲れ! 」
年老いたしゃがれ声でありますが、声に元気、張りがあります。ただ声を発する際、全身が小刻みにカクカクと動いてしまっていますが。
しかしただの老人からは考えられない程の濃厚なオーラも漂っています。この方が先程の闘気の持ち主のようですが、いったい?
「レジェンドよ」
メグミさんが嘆息と共に声を漏らしました。そして続けます。
「それより驚いたわね、まだ現役だったんだ」
レジェンド……っ!
このご老体があの人間国宝、レジェンドなのですか!?
たしかに皮と骨が大半を占めるあの細い体からは、考えられないくらいのオーラ量がみなぎっています。
レジェンド。
それは存在自体が伝説であります。
ソードマスター、王族お抱え騎士、ドラゴンを素手のみで退けた、元イールの騎士、水面を激走した、真の脳筋野郎、公然の場で王族相手にタメ口をきいた。などなど逸話や字は数知れず、本当だったら英雄の墓所に眠るであろう人物と囁かれるも、長生きするもので未だに墓の外。
そしてこれらレジェンドの逸話の殆どが、100年以上も前の事であります。私の記憶と計算が正しければ、現在の年齢は150歳を超えていらっしゃるはず。
「あの腰が曲がった姿ーー」
メグミさんの口から、ぬるりと言葉が零れ落ちます。
「それと膝の曲がり具合、そのどれもが剣を振るう者の到達する姿。剣を振り続けた結果、それに特化した形で身体が固まり、ーー出来上がってしまったのよ」
なにか嫌な話を聞いてしまった気がします。
「よっ、よっ、お疲れ! 」
レジェンドは、ここにいるメンバー全てに挨拶をしていっています。
兎に角、今も元気に満ち溢れているようですね。
その時ーー。
入り口の扉が爆発したのでは、というような勢いで派手に扉が開きました。
そしてそこには、筋骨隆々の大男が空間狭しと立っています。
かるく2メートルは超えている体躯に、皮膚を限界まで引き伸ばし張り裂けてしまうのではないかと思われる程にまで隆起した筋肉。
身体のラインがわかるほどの薄くて面積が少ない黒をベースとした着衣、そして大剣に大盾を装備したその男は、ギラついた双眸で部屋に視線を彷徨わせます。そしてその瞳は、一点に固定されるとクゥワッと見開かれました!
そしてーー。
「ジンさんっ! 会いたかった!」
「キョウゴ、久しいな」
ジンさんにキョウゴと呼ばれた大男は、こちらへ目がけて全速力で走り始めると、ジンさんの両足を刈り取るようにして低空タックルをしてきました!
しかし流石ジンさん、最小限のダメージに抑えるよう倒れる際上半身を捻ることにより、両手で地面を受けるようにしてうつ伏せで倒れます。
しかしーー。
キョウゴさんにとってどちら向きに倒れようがさして関係ありませんでした。
地鳴りのような雄叫びを上げながら、マウントポジションになったキョウゴさんが腰を前後運動させ始めます! ジンさんのお尻、一点にのみ狙いをさだめ。
その打ち付け行為は荒々しく、時にリズミカルにと変化を交え続きます。それは、聞く者によっては悪夢の調べとなる音を立て。
「どんっどんっどんっどんっ! 」
「ば、ばか! キョウゴ、皆がみてるじゃないか! い、いや断じて違うぞ! みんな、決して怪しい関係とかそう言った趣味があるわけでは、断じてないぞ! 」
「フィニッシュよ! ドドドドドドドドッ! 」
キョウゴさんの荒々しい攻撃により、ジンさんがなにか声を発しようとしていましたが「ぐがががががががっ 」となり意味ある言葉になりません。
すごい光景です。
「あらっ、隠さなくてもイーのにね」
見ればニヤニヤ顏のメグミさん。
そして本の隙間からこの一部始終を覗いていた優男さんが、口をポカンと開けて目を丸くしています。
どうやらあの方だけが、この中で唯一まともなようであるようです。




