表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
298/316

彼の地に集いし風雲急を告げる者達

 陽はつい今しがた完全に落ちました。

 そして大通りに並ぶ多くのお店が今日の営業を終わらせていく中、魔法の光源で光りを放つ街灯が、多くの帰路へと向かう行き交う人々に影をおとしていきます。


 私はその大通りを流れる人の波に紛れると進んで行きます。途中、道を一本入り裏通りに変えると、途端に人通りが少なくなり、街灯がない為月明かりを頼りに進む事を余儀なくされました。

 時折すれ違う人々。目深に被ったフードで極力顔を見せないのはもちろん、いつもとは違い目立たないように意識しながら進みます。

 そして今一度辺りに気を配り、尾行されていないかを確認。そこで目的地であるとある街の一角にある、地下へと続く冷たい石段を下りていきます。


 その階段の途中、横穴を発見します。ちょうど影になっているため注視しないと気付かない場所、大人が屈めば進める程の大きさの穴です。

 私は逡巡する事なくその横穴に入ると、足下に重ねるようにして置かれた煉瓦を見つけました。恐らくこの煉瓦、普段はこの横穴部分に嵌め込む事によりこの場所を隠しているのでしょう。


 そこから少し進むと突き当たりになっており、今度は地面に穴が。この穴には梯子が掛けられています。

 その梯子に足を掛け、手を掛け、一歩づつ慎重に降りていくと、土を掘り返したような土壁の通路が左右に伸びていました。その土壁の所々には古びた煉瓦が見え隠れしている事から、どうやらこの通路は街の改装で埋められた、旧時代に使用されていた通路のようです。


 ここは右側、でしたね。

 旧時代の通路を進んでいくと、今度は途中で三つに分かれている場所へと来ました。

 この分岐も右を選択、と。

 そして道沿いに進んでいくと、やっと一枚の木製の扉が現れました。


 ここですね。

 その扉を開きます。そして中を覗くと、薄暗い部屋のためまだはっきりとはわかりませんが、複数の人の気配がします。

 私は意を決して部屋の中へと、そして油断する事なく身体を入れます。

 するとーー。


「やっほー、パラディーン! こっちこっち」


 突然の甲高い女性の声。この声はーー。


「さすがきっかり10分前! ただここまで正確だと、ちょっと薄気味悪いわよ」


 毛先が少しだけカールがかかっている栗色の髪をおヘソの辺りまで伸ばした、猫科の目を連想させる大きな瞳に長いまつげの背の低い女性が、ぶつくさ言いながらこちらへ歩み寄ってきました。

 この人はうちのギルマス、メグミ=アスロードさんであります。


 私は扉を閉めると、フードを捲り素顔を見せます。

 するとメグミさんが私の肩に手を置きました。そして振り返って部屋の中心部、暗闇の方を見据えます。


「ジン、この色白の子がウチのパラディンよ。どう? 」


 すると闇から人影が一つ剥がれ落ち、音もなくこちらへと進む事により、その人影自体から闇を取り除いていきます。


「この方はーー 」


 その人の姿を目の当たりにして、思わず声が外に出てしまいました。

 その露わになった姿とは、上半身は裸で下半身には黒のブーメランパンツ、そして頭部にはヤカン兜(ケトルハット)と、まさに巷で話題のケトルマンの姿、そのままであります。


「おお、君がパラディン君か! メメから話は聞いている。たしかに素晴らしいオーラを纏っているな。そして今回はよく来てくれた! 歓迎しよう」


 ねぎらいの言葉と共に手を差し出してくるジンと呼ぼれた男性。その男性は握手を交わしながらに続けます。


「私の名はブジン=アラ=ダマーヴァンド。皆は私の事をジンと呼ぶ。そして私が、ケトルマンだ! 」


 やはりこの方がケトルマンでしたか。しかしつい今しがた褒めて頂いたばかりですが、ジンさんのその鍛え抜かれた肉体を包むオーラは、私なんかの比ではありません。

 やはりメグミさんの仲間だけあって凄い人物のようであります。


「そうそうパラディン君、メメはちゃんと仕事をしているかな? 厄介ごとばかり押し付けられたりしてないか? 」

「いいぇ、とんでもないです。いつも良くして頂いています。それとよく相談にも乗ってもらっーー」

「そうか。ただメメは人をこき使わせる才能が天下一品だからな。無理は禁物、特に体調管理には気をつけるのだぞ! 」


 その言葉を受け、メグミさんがジト目でジンさんを睨みます。


「ちょっと、それはどう言う意味よ? 」

「すまぬ、冗談だ。それよりメメ、初めて会った時からもう二十年も経ったわけなんだが、見た目が当時とあまり変わらないではないか」

「あらっ、ジンちゃんお世辞が上手くなったじゃない? どうしたの? 」

「その美しさの秘訣を聞いてみたくてな」

「もう、本当にどうしたのよ? 」


 心底嬉しそうなメグミさん。

 しかし二十年前、十代後半はさすがに言い過ぎでしょうが、たしかにメグミさん、肌のツヤからして二十代半ばだと言われてもわからないぐらいの若さはあると思います。

 ただ話してみると、深みある言葉や人生観、そしてボキャブラリーにとんだ会話と、その話には年相応の厚みがあります。


 そこで暗闇に目が慣れてきていたため、一度部屋を見渡してみます。

 やはりメグミさんとジンさんの他にも、部屋のすみに数名いるようですね。


 壁に背中を預け腕組みをしている、頬に十字傷があるドワーフ。部屋の隅に置かれた椅子に腰を下ろし、両眼を休めている聖職者風の大男。そのすぐ隣でテーブルに肘をつき本を読みながらも、こちらをチラチラと気にしている様子の中肉中背の優男。


 私を含め、6名ですか。皆さん腕に自信がありそうな方ばかりですが、特にあのドワーフさんから、ジンさんと同じくらいの凄まじい迫力を感じます。


 あとこの部屋の約半分を占める大きさで、複雑怪奇な魔法陣が床に描かれています。

 おそらくこれが、メグミさんが用意しておくとあった転送陣ですね。


 その時、『キィィー』と言う音を立てて入り口の扉が静かに開いていきます。

 そして一同の視線が入り口に注がれる中、開かれた扉から、震えがくる程の威圧感が地を這い、この部屋へと流れ込んできました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ