封書
本日二話目になります!
◆ ◆ ◆
机に折り重なるようにして置かれた書類に目を通しながら、ペンを走らせ収支の記載をしていきます。
うーむ、一時はどうなる事かと頭を悩ませましたが、なんとかなりそうですね。
これも新事業として始めたばかりの、『安心トラベル、ガイド人付き! 』に少しずつではありますが、依頼が入って来ているおかげですね。
この仕事は、女性の隊員が多いウチのギルドの特色を強みにしたサービスで、貴族やお金持ちの女性をターゲットに、気軽に旅を楽しんでもらうものとなります。
このように前例のないアイデアにもとずく新たなサービスは、顧客を獲得するために適切な料金設定はもちろん、効果的な宣伝、売り込みが必要ですが、それらが生きるためにもまずは信頼が必要となります。
ただその信頼を築くにも実績がなければ難しいものになりますが。
そうして依頼が一つも入らない中、どうにかして取っ掛かりを掴めればと思いギルマスに水晶越しに相談をしましたが、そこでお知り合いの方を紹介して頂いたのが吉と出ました。宣伝も兼ねての初仕事でしたので、料金は格安に設定していたのですが、かなりの好評で金額が正規のモノになるにも関わらず、さっそくリピーターとして利用して頂けました。
そしてその方の口コミで依頼が入り出し。
これは無理を言って任務にあたって頂いた、ミケさんのおかげですね。
そしてこの事業が波に乗れば、同じような事を始めるところが出てくるでしょうから、今のうちから差別化を考えておかないとですね。
信頼はそのまま第一に、訪問先のグルメや名所の情報は最先端のものとして。そうですね、何かしらの疑似体験とかも面白そーー。
「騎士様っ、手紙が来てます! 」
ふわりとした長い赤毛を後ろに纏めている小柄な女の子、タルトが、一枚の封書を手に私の部屋へと飛び込んで来られました。
「タルト、ありがとうございます」
私のほうへ差し出された頭を優しく撫でると、タルトが「でへへ〜 」としまらない声を漏らしました。
そして手渡された手紙を裏返し、差出人を確認して目が止まってしまいます。その手紙の差出欄には、『フォレス=フィール』と言う名が刻まれていました。
この名前はギルマス、メグミさんの偽名の一つ。
という事はーー。
接着された朱色のロウをペリッと剥がしそっと中を覗くと、数枚の紙が。そしてその中の一枚には、炎の文様。
うーむ、やはりですね。魔具のトラップが仕掛けてありました。
これは封を開け何も知らずに手紙を手に取り文面を読もうとすると、魔具が作動して手紙自体が燃え上がる仕組み。秘密文書など、内容を知られると困る物には大抵このようなトラップが施されてたりしますがーー。
私も巷で言う脳筋に分類されるため、これは慎重に取り扱わないといけませんね。
さてと、どれどれーー。
……。
…………。
決行は今夜ですか。
しかしそんなカラクリになっていたとは。
……この事はジリウスさんだけに伝えて、誰にも気付かれないようにして夕方までには身仕度をすませないといけませんね。
「騎士様、大丈夫ですか? なにかあったのですか? 」
「いえ、大した事ではありませんので」
そこでタルトが、おずおずと見上げるようにしてこちらを伺っています。
「あの、私も書類整理、お手伝いしましょうか? 」
「いつもありがとうございます。ではこちらに来て、この書類の山を案件ごとに纏めて頂いてもよろしいですか? 」
「はいっ! 」
タルトは私の隣へちょこんと座ると、満面の笑みを浮かべ作業へ入りました。
そしてその晩、私は愛用する樽兜と鎧を身につけずに、軽装にマント、そしてフードを目深に被ったスタイルで外へと抜け出すと、一人レギザイールの城下町の闇へと身体を溶け込ませ進んで行きます。




