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弓部隊、ここに集結!

 う〜ん、怠いな〜。


 私はいま、弓部隊の女の子達、総勢七名を引き連れ城下町の中心部の近くにお店を構える、丸得亭まるとくていへ昼食を食べに来ている。

 料理は美味しくて食べてる時は嫌な事を忘れられるんだけど、ふとした拍子にため息が出てしまう。


 黙々と運ばれてくる料理を口にする私達三人に対して、隣のテーブルに座るトロ達四人は、会話に花を咲かせていた。


「それでトロ先生、どうでしたか!? 」


 トロの正面に座るまだ少女といっていい年齢で、目がクリクリとした背の小さな女の子、アルカが食い入るように質問をした。


「やっぱり初めは緊張したかな。ただザザの森までの日帰りツアーだった、てゆーのもあるんだろうけど、やってみたらたいした事なかったよ。それよりさ、森の中で昼寝なんて、金持ちが考える事はよくわかんないわ」

「最近ー 」


 トロとアルカの間に座る、クルクルヘアーの言葉尻緩やかな少女、ナナサがトロの愚痴っぽい言葉の後に続いた。


「森林浴が金持ちの間で密かなブームになりつつあると、パラディン隊長が言ってましたよー」


 そこで、こちらのテーブルに座する綺麗に手入れされたロングヘアーの少女、サティが上品な振る舞いで口元を手巾で拭いながらに会話へと加わる。


「でもたしかに、危険が取り除かれたザザの森を想像してみましたら、木々の鼓動、零れ落ちる陽光、川のせせらぎ、魅力的かもしれませんね」

「森はあくまで狩場だ、それ以上でもそれ以下でもないね」


 元借金取りのガナベリアをそのまま幼くしたような男っぽい少女、ハンナが椅子の前脚二本を浮かせ後方へ傾けると、可愛らしい八重歯を見せながらに言った。

 その姿をジト目で見やるサティ。


「相変わらずあなたはガサツですね」

「あっ、なんだと! 」

「やりますか? 」


 ハンナがニヤリと笑みを作る。


「上等だ! 」


 二人が座ったまま互いの服と髪の毛を掴み合い口喧嘩になる中、アルカはオロオロとし、ナナサは「二人ともやめなよー」と声をかけるもマイペースに食事を続ける。


「嬢ちゃん達は元気だね、ただ叩いたりしたらダメだからね」


 丸得亭の女将さんが料理を運びながらの注意。それに対しトロが「いつもの事なので」と述べたあと、「酷くなる前に止めますので」と付け加え頭を下げた。


「あっ、お姉様、今ほうれん草をアルカのお皿に移しましたね! 」

「えっ、いつの間に! 」


 トロの声に、アルカが自身の皿に盛られたほうれん草に気づき驚きの声を上げた。


「トロ、いい感してる」


 悪びれた様子を一切見せずに蜘蛛が淡々とトロを褒めた。


 ちなみにここを切り盛りしている女将さんと大将さんは元気に溢れている。そしてその元気を少しでも貰えればな〜、と思っているのだがーー。

 多少は食べれたけど、食欲不振は変わらずであります。


 あの時、廃坑で見せられた記憶の数々。そして最後に、男に首を絞められた時の感触。そのどれもが実体験のようにして、心に刻まれてしまっている。


「そうそう、絵、完成したら一番に見せて下さいね」


 今もサティとハンナが罵り合う中、トロがウキウキとした声色を発した。


「わかった」


 短い言葉に、誇らしげな色を乗せ返事をする蜘蛛。

 そうそう、トロとの買い物以外は暇さえあれば弓矢の手入れや、訓練所で弓を引く毎日を送る趣味とは無縁であった蜘蛛が、ある日を境に変わる。

 そのキッカケは、トロとドリルの顔に落書きをしたところからだ。

 なんでもそこで筆を使って書くことに興味が湧いたそうで、手持ちの墨がなくなると、子供がするようにして石を使って石畳に落書きを始めた。しかしその絵は落書きのレベルを遥かに超えており、一つの風景画としてそこに作品が生まれた。


 もともと蜘蛛は幼い頃から魔具を使い、魔力で矢を作り上げていた。魔力を好きな形に固形化するには、漠然とではなくかなりしっかりとした固形化する力、造形力が必要である。つまり本人も知らず知らずの内に、幼い頃から日々その能力をひたすら鍛えていた事になる。


 そして雨が降れば消えてしまう数々の作品であったが、しかしその内の一つが道行く一人の商人の目に止まった。良いものを見せて貰ったと述べた商人は、名刺と共に、水に浸せばその石と同じ色に水を染め上げると言う、水染石みずぞめせきを7色分プレゼントしてくれた。


 それからというもの、蜘蛛はその石を使いバレヘル連合の建物に作品を書き続けている。

 そしてそれらの作品も綺麗に模写をした風景画から、感情を表現したであろう素人目ではなにを描いたのか分からない、ただ綺麗で心和む、前衛的な芸術作も書くようになっていた。


「みんなも私達の部屋に入っても、カーテンめくったら怒るからね」

「「はーい」」


 たしか今は、トロと蜘蛛の相部屋の壁に描いてるんだっけ。

 そこでトロと蜘蛛、そして口喧嘩がひと段落したサティ達を含む新人四人組がヒソヒソ声を始め出した。


「そう言えばミケ姉、最近様子おかしくない? 」

「たしかにミケ姉さん、元気ないです! 」

「私、訓練後すぐに自室へ戻ってるのを見ましたわ」

「ミケ、悩んでる……みたい」


 ふぅ〜、やっぱりみんなに心配かけさせちゃってましたか。これからは今まで以上に、表へ出さないようにしなくては。


「そうだ! ミケ姉、みんなでどこか遊びに行かないです? 」


 トロが話しかけてきた。

 しかし遊びね〜。

 ……そういえば。


「それならーー」


 行ってみたいトコがあった。


「本部とは真逆に位置するんだけど、北地区の一本入った裏通りに新しく食べ物屋さんがオープンしてるんだよね。んでそこ、料理の評判も良いんだけど、各地のお酒が並んでるらしくて気になってんのよ」


「お酒か〜、私は飲んだ事ないですけど、なんか良さそうですね」


 そこでトロが少女たちを見やる。


「まぁー、あんたらはお留守番だけどね」


 その言葉に、少女達から一斉に「えー」と声が上がった。


「ウマイ料理には、ウマイお酒……格別」

「お姉さまの新たな一面発見! 行きましょ行きましょ!」


 はしゃぐトロ。

 と言うか蜘蛛、いつお酒なんて覚えたの?


「蜘蛛、あんた酒飲めんの? 」

「ガオウに、少し貰ったら、……飲めた」


 蜘蛛にお酒を教えたのはあいつか!


「じゃ、善は急げ! さっそく今夜行きましょうね」


 ってゆーか、私のために行くんだよね?

 そんな私に御構い無しに、トロは蜘蛛の手を握りブンブン振っている。蜘蛛も嬉しそうだ。

 まっいーか、一人で飲んでも楽しくないしね。

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