ずるり
光の空百足の先端部に、ドリルの炎に包まれた拳が炸裂!
バチバチッと激しく音が鳴り火花が飛び散る!
そして空百足の形が崩れ弾け飛んだように見えたのだが、ドリルが伸ばした腕を引き寄せようとしたところに、細かく空に飛び散っていた光の欠片がドリルに牙を剥いた。
「ぐががぎ! 」
空百足を形成していた電流に包まれたドリルが、その強力な電流に激しく身体を揺らし声を漏らす。しかしドリルは、その苦痛の叫びを強引に雄叫びへと変えた!
「ぐぅうわぁぁああー! 」
するとドリルの全身から炎がブワッと溢れ出し、絡みついていた電流を吹き飛ばした。
「ハァハァ」
肩での呼吸。全身から噴出した炎はオーラへと戻っていたが、衣服は自らの炎で所々が燃え尽き、露わになった肌には裂傷や火傷と無傷な箇所は残されていなかった。
「なっ! 」
突然、魔女が驚きの声を上げた!
見れば、魔女の左手の先、中指が吹き飛んでいた!
そして魔女の左手を中心にパンパンッと何かが弾ける音が!
これをやってるのは、ーーベルか!
ベルはその手を魔女へと向け伸ばしていた。あの位置だと、ドリルが壁となり魔女の死角になるはず。
どうやったのか分からないが、何らかの攻撃を魔女へ行ったのだ。
そしてその破裂音は続く、魔女が生み出した小さな黒球付近でも。
『バグゥン! 』
奇妙な音が鳴った!
そして魔女が生み出した黒球が肥大化していっていた!
魔女の身体のほぼ全てを覆い隠すまで広がった闇が、ぐにゃりと捻じ曲がり渦巻き始める!
そして一瞬その闇が赤味を帯びた気がした。
そして渦巻く闇は、突然その大きさを縮め始め、次の瞬間には元の大きさを通り越してそのまま消えて無くなった。
『ぼとぼとっ』
地面に何かが落ちる音がした。
そこは魔女が先ほどいた場所。
そして地面には、ギリギリ闇の渦巻きの範囲外にあった魔女の頭部と右手が地面に転がり、また両足のスネから下だけが立った状態で残されていた。
「……愚者が、愚者が愚者が! 」
ベルだった。おかしくなってから今まで一言も話さなかったベルが、月の魔竜を睨みつけ、憎々しそうに言い放った。
しかし月の魔竜へと向かうベルの身体はズタボロである。
「愚者は貴様だろうに」
月の魔竜が言った、その美しい声に侮蔑を織り交ぜ。
そこで突然、ベルが胸を押さえしゃがみ込んだ。
「だっ、大丈夫ですか! 」
ドリルが咄嗟に駆け寄った、そしてベルへと手を差し伸べる。
その光景を見て、先程の自身の姿とドリルの姿がダブって見える!
「ドリル! 」
「バカ、離れなさい! 」
俺とサクの叫びが闇の世界に木霊す中、ドリルに肩を借り立ち上がろうとしていたベルから、再度闇が溢れ始めた!
闇は形を成し、ベルから伸びるようにして何本も現れた。
その闇の先端は幾つかに裂け、手の平のように動き出す。
そして鈴の音が、鳴り始めた。
それも複数の鈴が、何度も何度も激しく鳴り響くようにして。
『リンリンリンリンリンリンリンリンーー 』
次第に大音量となってくる不気味な鈴の音が鼓膜を震わす中、ベルから生えた複数の闇の腕が、炎のオーラを纏うドリルを捉えようと動き出す。
ベルから手を離したドリルが、四方八方、また死角からも迫る腕を紙一重で躱していくのだがーー。
その内の一本の腕が、横薙ぎに軽く撫でてしまった。
その部位は、一直線上にあったドリルの左腕と胴体。
瞬間ステップを踏んでいたドリルの左腕は、撫でられた部分から切り離され地面へと落ち、胴体部分は撫でられたへその辺りを境に上半身と下半身とが横へと擦れ、着地と同時に完全に切り離された。
そのまま地面に横たわってしまうドリルは、弱々しく咳込むと血を吐いた。
乾いた砂の大地にその血が染み込んでいく。
「ドリル! 」
くそっ、今すぐいく!
待ってろ!
俺は回復呪文を唱えながら駆け始めたのだがーー。
空気が震えた。
目の前がグニャッと歪んで見えた。
なんだ?
目の錯覚か!?
そして透明な何か大きな塊のようなものが全身に体当たりをし、そのまま身体を駆け抜けていく。
気が付けば後ろへよろけてしまっており、全身は汗でビッショリとなっている。
これは?
そこでやっと気がつく。
スラリと立つ月の魔竜が、その見開かれた双眸を真っ赤に爛々と輝かせ、受けた者の身体の芯をジンジンに震わせ痺れさせてしまう程の、今まで感じた事のない莫大な殺気を放っている事に。
そこで月の魔竜が吼えた!
それは怒りの咆哮。
この咆哮を間近で聞いた者は十人が十人、身体を縮こまらせずにはいられないだろう。
そしてその響きにより耳がおかしくなってしまった。大気の震えにより身体の芯からビリビリと震え、漏れ出る声も途切れ途切れになっているはずなのだが、それらの音が全く聞こえない。
また三半規管が狂ったのか、天地が回転を始め逆さになり、それに加え空間がグニャリと捻じ曲がっていく。
視界がぼやける中、雄叫びをあげるベルからは異形の者達が這いずり出しているのが見え、捻じ曲がる空間の只中にいる月の魔竜が背筋を伸ばし一本進むたびに、辺りの空間が一斉に歪んでいくのがわかった。
それよりうまく焦点が合わない!
ドリルはどこだ?
まず何をすれば良いんだ?
何も考えが纏まらない中、身体が一定方向へと引っ張られている事に気がつく。
そしてその先には、空間に出来た歪みの一つが。
そして俺はなす術なく、その闇に吸い込まれ奈落の底へと落ちてしまった。
このお話で50万文字突破しました!
そして今月で連載まるっと二年。
チラ見でも読んで下さっている皆さん、応援して下さってる皆さん、これからもヨロヨロお願いしますデス。
ちなみに次のお話は、この章のエピローグとなりますデス♪♪




