四種の雷撃魔法
二本のチャクラムが舞う、魔女の肉体を切り裂くために。空気を裂き進むその動きは、緩やかな弧を描く。
あのチャクラムの軌道、魔女が雷魔法を解き放っても邪魔になるよう、絶妙な位置取りで進んでいる、上手い!
ベルの奴、これまでの戦いもそうだが、もしかして意識があるんじゃないのか!?
仮にこれらを無意識でやってのけてるのだとしたら、今まで凄まじい訓練を積んできたはずだ。
そしてチャクラムが、吸い込まれるようにして魔女へと迫り、魔女の影とチャクラムの影が交差した!
しかしチャクラムが獲物を捕らえる事は無かった。
当たる寸前で、魔女が驚異的な跳躍で横へとステップをしやがったのだ。手の平上の闇を運びながら。
そう言えば魔女の奴、先程サクが雷魔法で怒涛の攻撃を見せた時も、空中にいたにも関わらず俊敏な動きでことごとく躱していやがった。
そして魔女は右手に纏っていた雷魔法を指先へ移動させると、指を弾くようにして発射させた!
人差し指から放たれた一筋の光、それを皮切りに指を弾くたびに高速の雷魔法がベルは狙う。
ベルは姿勢を低くし、身をよじり、そして地を這うようにして躱していく!
そして空中でUターンをして戻ってきたチャクラムを、ベルは流れる動作の中でキャッチをすると、魔女との間合いを詰めながら、追い縋り、そして再度放った!
しかしその攻防は長くは続かなかった。魔女の中指、薬指、小指を新たに弾く事により放たれた新たな雷魔法により。
それはまるで蜻蛉返りのように連続縦回転をクルクルと繰り返し、その都度ベルへ迫った。
それはまるで空百足のように太くて長い光で、ゆっくりとだが諦める事を知らずに迫った。
そしてその光の球体は、尾を引き進んでは止まる進んでは止まると不思議な動きを繰り返し迫った。
またそれら光の全てがベルを追尾し、さらに魔女から放たれる光の射撃が執拗にベルを追い込んだ。
鈴の音が聞こえるたびにベルの間近でそれらの速度は落ちたのだが、一つ、また一つと魔女の人差し指の射撃が当たり始めていく。
しかし魔女が使うあの雷魔法、即席の初級魔法なんてレベルではない。と言うか上級魔法クラスで、尚且つオリジナルの魔法なんじゃないのか!?
左手にはあの闇螺旋の破片を無詠唱で発動させていると言うのに!
奴は底無しの化け物か!?
「サク様、早く離して下さい! このままではベル様が! 」
ドリルが懸命に腕を振りほどこうとしているが、サクは恐らく魔力強化されているあの光る腕でしっかりと握って離さない。
たしかにドリルが言うように、このままではベルは殺られてしまうだろう。
しかしーー。
同時に今のベルが通常ではない事も分かった。あれだけの魔法を受けているというのに、攻撃を受けてもその衝撃でよろけるだけ。
苦痛や恐怖では決して歩む事をやめない。あの反応は人間ではなく、まるで操り人形のようだ。
そしてただただ、それらの衝撃で歩みを阻害された事にのみ怒りを撒き散らしている。
あいつ……もう既に、魔宝石によって魔物に変えられてしまっているのかもしれない。
「ギィイヤァーー! 」
ベルの叫び。
トンボ返りを繰り返す光がベルに接触し、体勢を崩したところに球体の光が突っ込んで来たのだ。
バチバチと音を立て、ベルの身体に電流が流れ込む。
更にそこへ、空百足のような雷が迫っていた!
「早く、手を離して下さい! 」
「ダメよドリル! あいつはもう助からないの! 」
するとドリルが両の瞳を静かに閉じた。そしてーー。
「世界を闇へと先導し、破滅を撒き散らす孤高なるーー 」
「ド、ドリル!? 」
あの言葉の羅列は、ドリルが炎の魔宝石の力を解放するためのきっかけとなる、サクが教えた出鱈目な言葉!
あいつ、サクを振り切って強引に助けに行くつもりか!?
「ーー滅びの業火をこの身に与えよ! 」
ドリルの開かれた右の瞳が、真っ赤にサンサンと輝いていた! そしてドリルの腕が炎のようなものに一瞬にして包まれた!
ドリルはあっさりとサクの手を振りほどいてみせると、その場で身を屈める。そしてグッと地を踏みしめたかと思うと、砂埃が舞った。
既にそこにはドリルの姿はない。
一直線にベルへと向け突き進んでいた!
そしてとんでもない早さで駆け抜けると、動けずにいるベルに迫っていた空百足の光に向け、渾身の炎の左ストレートを繰り出した!




