原初の闇の断片
「非常識だわ! 」
サクが魔女を見据え驚愕の声を上げた。
目を大きく見開き、何をそんなに驚いてるのだ?
ーー待てよ。
魔女の手の平上に出来た闇……、あのような闇の球体を生み出す魔法を、俺は一つだけ知っている。
しかしあれはーー。
「サク様! 」
ドリルが声を張り上げた、そして続ける。
「あの球体から、凄くいやな感じがするのですが! 」
ドリルは本能であの魔法のヤバさを察知したようだが、あの魔法は……、いやしかし!
逡巡している俺をよそに、不安げなドリルへサクが早口で声を飛ばす。
「ドリル! あの魔法が仮に飛んで来ても、絶対紙一重で躱そうとしてはダメよ! すぐに大きく飛び退くの、いい! 」
本当にあれは、そうなのか!?
あの魔法も呪文の詠唱をせずに魔女は簡単に出したんだぞ!
しかしサクの驚きも尋常ではない。それに魔法に関しては、オリジナル魔法まで開発しているサクのほうが俺よりずっと詳しいはず。
と言うことはあの魔法はそういう事になるのか?
「サク、あの黒球を発現させた魔法って、もしかして原初の闇の断片なのか? 」
声が上擦りそうになりながらも、俺はなんとか口から問いの言葉を出すと、サクは大きく、そしてゆっくりと一度だけ頷いた。
それを見て、俺の毛穴という毛穴から汗が滲み始めた。
「ジダンはあれのやばさを十分理解しているようね。兎に角ドリル、魔女はもちろん、ベルだって正気を失ってるんだから不用意に近づくなんてありえないから! 助けようなんて考えはもう捨てるのよ! わかった!? 」
サクに手首を掴まれ諭されるドリルは、『うぅぅっ…… 』と小さくうめきを漏らすのみである。
しかしあの魔法、本当に原初の闇の断片だとは。
禁呪フレアを使用したがために、悪い形で後世に名を残した大魔道士が千年前にいた。そいつは多くの星の魔法を研究し、後世にその多くを残している。
その中の一つに、原初の闇の断片と言う名の星の魔法がある。その魔法は強力な力を秘めており、発動に多くの魔力を消費する所は他の星の魔法と同じなのだが、一点だけ他と一線を画する所がある。
それは魔力が足りなくても発動出来てしまう、と言う事だ。
なぜ発動できてしまうのかと言うと、それは足りない魔力の代わりに魔法が術者の生命力を吸い上げるからだ。
また詠唱時のイメージはかなり難しいらしいが、そいつさえクリアしてしまえば誰でも発動出来る星の魔法、それが原初の闇の断片なのだ。
しかしその代わりではないが、ちゃんと欠点も存在する。
それは他の星の魔法よりも長ったらしい呪文の詠唱が必須で、また竜をも一撃で沈める事が出来る威力を持つ反面、射程が数十メートルと短かめなため、色々と対策が取られやすいのが難点である。
しかし魔女はーー、この星の魔法を無詠唱で出しやがった。
つまり最大の欠点の一つをクリアさせてしまっていやがる。
しかも右手には、これまた無詠唱で別の魔法を作り上げている。
まぁ、あの雷のほうは下級魔法だろうが。しかしこのままでは、高確率でベルが無残な死体に変えられてしまう。
そこで気がつく!
ベルの両手には、いつの間にか一本づつチャクラムが握られていた。
そしてそこから音も無く、その細身で長身である身体をトンッと小さく跳ねさせ地面から離れると、両腕を身体に巻きつけるようにして右腕を下から左上に、左腕を左から右へと鋭く振り二本のチャクラムを魔女へ向け高速で飛ばした!




