七つ目の能力
魔女から放たれた炎魔法が迫る!
そこで歩むベルが、ゆらりと揺れた。そして柔軟な動きで次々と躱していく!
やるじゃないか!
……いや、しかしこれは!
螺旋を描き進んでいた炎がベルの横を通り過ぎると、まるでベルに絡め取られたかのように、ベルを中心に大きく円を描くように飛び始めていく!
そしてその円運動は、時間と共に急速に狭まってきていた。
笑い声が暗黒の世界に響き渡る。
魔女はベルへ突き出すように向けた右腕の指を、糸操り人形を操作するかのようにグネグネと動かし始めていた。
「今代の能力で躱す事が出来るかしら!? さぁ、踊ってみせなさい! 」
ベルはサッと地を這うようにして、炎の包囲網へと突っ込んでいく!
あいつ、脱出を試みるつもりか!?
「危ない! 」
サクの叫びだった。そしてその言葉の意味を、俺はすぐに知る。
「ブレイク…… 」
魔女の微笑混じりの冷酷な呟き。
そして炎の包囲網を通り抜けようとしていたベルの間近を飛んでいた、ひときわ大きな炎の塊が、突然爆発。
炎を撒き散らしながら弾けたのだ!
降り注ぐ小さな炎の多くを、ベルは全身で受けていってしまう。
その衝撃で吹き飛ばされるベル。
そして服の様々な箇所に炎が燃え移り、その威力で砂を巻き上げながら盛大に地面を転がっていく。
いや、あれはわざとか!?
大袈裟に転がる事により消化しているのだ!
地面の砂で衣服を燃やしていた炎を消し去ったベルは、サッと両手と片膝を地につくと、見上げるようにして包囲網を狭めながら頭上を舞う炎の群れを睨んだ。
そこで再度魔女の声が聞こえてくる。
「あら残念、能力を披露する間もなかったわね」
魔女の合図と共に、ベルを取り囲む全ての炎が同時に弾けた! 四方八方で巻き起こる小爆発。
その炎の熱量から生み出された熱風は、離れている俺の顔面を押す。
そしてベルの姿は、その炎で霞んで見えた。
『チリーーン』
そこで鈴の音が聞こえた。
なんだありゃ?
そして広がる光景。
ベルの近くまで迫った炎という炎が、そのスピードを失っていく。
ゆっくり迫る、だが僅かな隙間しかない炎の欠片を、ベルは俊敏な動きで避けていっている。
それを見た魔女の顔に、イラつきの色が一瞬差した。
「……『螺旋』ではない、これはどう見ても『遅延』効果。たしか心臓の音を止める力、だったかしら? 実際にはそんな闘いかたが出来るわけなのね」
炎から抜け出したベル。
直撃を免れてもあの熱量だ、顔や身体のあちこちに火傷らしきものが見える。
そんなベルは、チャクラムを両手にゆらゆらと歩を進め始める。その進行方向の先には、先ほどと打って変わり魔女の姿が。
「こいつら、二人とも非常識よ! 」
サクから抗議の声が上がった。
たしかに二人の闘い方は普通ではない。
ベルは魔宝石の力を使ってるらしいのでその型破りな能力は納得をしなくてはならないのだろうが、魔女の今の爆炎魔法は無詠唱だったよな?
言霊を省いた魔法、それは魔力コストが跳ね上がる事を意味する。聞いた話では詠唱有りの魔法の約十倍。
それなのに先程から強力な魔法をポンポンと使っている。
……魔女の奴、いったいどれだけの魔力容量を秘めてやがる!?
「他の能力を扱えるだなんて、宿敵を目の前にして通常以上の力が発揮されてるって事かしら? 」
魔女の右手が光り輝くと、バチパチと電気を放電し始める。
「でも、これならどうかしら? 」
そして左の手の平上には、キュンッと甲高い音と共に小さな闇が一つ生まれた。




