燃え上がる腕
闇にのまれ、エジサイールの街は暗黒の世界へと変わってしまっていた。また静けさが支配する中、どこからともなく不気味な鈴の音だけが、チリーン、チリーンと等間隔で鳴り続けている。
そしてベルから溢れ出ていた闇は、いつの間にか止まっていた。
「これはーー 」
サクが真剣な面持ちで、ベルから視線を離さずにこちらへ声をかけた。
「ベルの仕業よ」
サクの背中越しにかけられた言葉だが、どういう意味だ?
「なんの事だ? 」
「鈍いわね! この闇の空間を作ってんのが、サクの仕業って言ってんのよ! この感じ、きっとあいつが魔宝石を使ったのよ! 」
「なっ、なんだと!? 」
魔宝石って言うとおとぎ話に出てくる、あの魔宝石か?
「だからあいつはもう助からない。逆にこの世界から生還するには、魔物になったベルを殺るしか…… 」
視線をベルへと向けると、フラフラとだが、月の魔竜へと確実に一歩一歩近づいて行っている。
ベルが魔物に……。
いや、思い出せ!
おとぎ話のくだりでは、少年が氷の化け物になるまで、人間のままでも力を使えていたはずだ。
そして今、ベルの姿はまだ人間のままじゃねぇか! もしかしたらまだ手遅れじゃないのではないのか!?
あれやこれやと思考を巡らせていると、進むベルの前に、魔女が遮るようにして立ちはだかるのが見えた。
そして今にも飛びかかりそうなベルを前に、魔女が語り出す。
「あいつはたしか、七つの魔法石に七人の媒介者が捕らえられている、イールが作り出したタチの悪い複合魔宝石だわ」
それを聞いて、月の魔竜が鼻で笑う。
「複合、どおりで」
しかしベルを見やるその紅い瞳は、その色をじわりじわりと強めていっていた。
魔女はそんな月の魔竜の変化に気付いているのか気付いていないフリをしているのかわからないが、うんざりとした様子で話しを続ける。
「何度か闘った事があるけど、やられそうになると何処かに掻き消える、逃げ足がとても速い奴なのよね」
そこで魔女は、サクを見つめる瞳を細める。
「取り敢えず、媒介者には死をあげるけど、良いわよね? 」
「かまわん」
その月の魔竜の返答を聞いて、魔女が『ふふふっ』と笑みを漏らした。
そして突然、魔女のだらりと下ろしている両手がボォゥッと炎に包まれる! ゴウゴウと燃え上がる魔女の手。
そしてそこから溢れるようにして生まれ出たのは大小様々な炎の塊。それらは魔女の周りを旋回していたが、突如として一斉に向きを変える。
その進行方向にはベルが!
魔女の笑い声が小玉す中、炎の群れが螺旋を描きながら闇を払い舞い進む!




