輝く光球
スッと腕が挙がる。
間近に立つ男が、その鋭さと美しさを兼ね備えた腕を天へと伸ばしたのだ。男の手の上の渦巻く光球は、今では人の大きさ程になっている。
くそっ!
男を意識しすぎないようにしていると言うのに、その挙動の一つ一つに何故か目を奪われてしまっている。
するとその腕の先に浮かぶ光球が、ゆっくりとだが真っ直ぐに上昇を始めた!
くそっ、しかも身体が動かないため見上げる事しか出来な……ん?
首がスムーズに動いている!
視線を下ろし確認のため、拳を開くと握るを交互にしてみると、こちらも問題なく動いている。
やはり動けるようになっている!
いつの間にかあの威圧というか、一種の魅了のような物がとけていたのだ。
そこでサクの方を向くと目があった。あいつも動けるようだが……、どうする?
男の目的はデタラメなものだが、あの光球で何をするのかはおおよその見当はつく。それは人を、この街の住人を殺す、である。
そこでサクがプイッと視線を上へと向けた。
そうか、それしかないのか。
あの光から磔巨人を攻撃したような速度で攻撃が飛んでくれば、避けようがないのだ。
俺たちは一里の望みにかけて、アレがどういった物なのかを観察するしか……、いや待てよ?
視線を男へ向ける。
そしてある言葉が頭をよぎる。
魔法使いは魔法を使わせる前に叩く!
考えたと同時に足を踏み出していた、手にしたメイスを握りしめ。
そして次の瞬間、衝撃と共に身体を痺れが襲った!
そのため片膝をついてしまう。
この感じ、電撃を受けた感覚に似ている。男からではない、他方から攻撃を受けたのだ。
即ち、ーー魔女!
回復魔法の詠唱に取り掛かりながらも、今も一人浮遊を続ける魔女に視線を向ける。すると魔女は、涼しげな表情でこちらを見下ろしていた。
そしてあんなに遠いのに、なぜか魔女の声が微かに届く。
「彼の怒りを買ったらタダでは死ねないわよ、……おとなしく受け入れなさい」
受け入れる?
あの光球からの攻撃をか?
そこで光球の方へ視線を移動させると、魔女の位置より遥か上空で静止をしていた。目測であるが二階建ての家一軒分ぐらいには大きくなっているように感じる。
そしてーー、光の中にキラキラと輝く物が見えだした。それはあっという間に数を増やしていくと、その無数にある輝きが光球の中で弧を描き、かなりの速度で動いている。
「ジダン……」
サクの声だ。視線を下ろすと、サクは上方から目を離さずに口を開く。
「あの光、おかしいわ」
「どういう事だ!? 」
するとうわ言のように呟く。
「直視、出来るのよ…… 」
なっ!
言われて見上げれば、たしかに直視出来ている。いくら見続けていても目がチラチラとしない。しかも逆に見入ってしまいその光の全てを受け入れてしまえるような、そんな不思議な光。
そして直視出来るからこそ、あの光球が段々と光を強めていっているのが確認出来た。
そして光が、そこから一気に強まった!
その強烈な光で空が明るくなり、夜なのに青空が広がる。地平線の彼方ははっきりと黒いのに対し、ここら一帯の空だけが晴れやかな青空。
そしてその光には重さが存在していた。降り注ぐ光が強まる中、ドンドンと押される感覚が強くなっていく。




