男の正体って本当にそれなの??
レイアザディス、だと?
あのおとぎ話に出てくる女神、レイアザディスの事を言っているのか!?
「めっ、……女神様だなんて」
ドリルも驚きのあまりか、呟くように声を漏らした。
「なにもおかしな話ではない。なんせ目の前に、こうして我がいるのだからな」
男は笑みを浮かべそう言ったのち、フッと真顔になり目を細める。
「そう、ここにいる者は薄っすらとでも頭によぎっているのではないのか? 我が何者であるのかをな」
この男が何者かだと?
まさか……、いや馬鹿な!
しかし先程少しばかり見せた桁外れの強さと、この人ならざる者である感覚。この男は人の形をした別の何かであるのは間違いない。
そしてたしかに俺は、つい先程馬鹿馬鹿しい考えに至ってしまっていた。その次の瞬間には鼻で笑って否定をしたが。
その馬鹿馬鹿しい考えとは、もしおとぎ話に聞く月の魔竜が人の形をしてたなら、こんな風な男になるのではないかと。
……しかし、本当に、本物なのか!?
俺の困惑をよそに、男はドリルの正面に立ち話を続ける。
「女神と同等の存在である我が存在しているのだ。つまりこの事実は、女神もこの世に存在している、に繋がるとは思わないか? 」
「それはーー」
「そしてその可能性を本能的に一番感じているのは、他の誰でもない、色濃く出た者である主のはずなんだがな」
その男の語りかけに、ドリルが沈黙をした。
しかし再度色濃く出た者、と言う言葉が出てきた。男の話し方からして、ドリルがその色濃く出た者らしいが。
たしかにドリルは何かと規格外であると思うが、男はその事を言っているのだろうか?
しかしこの男が本当に月の魔竜だとしたら、おとぎ話と同じ事をしようとしているのか?
遥か昔、突如舞い降りた月の魔竜は生きとし生けるものを殺し続けた。そして救いを求めた人々の願いを受け、女神レイアザディスが降臨する。そして月の魔竜は倒された。
そして今回も、全ての生命体を殺すと言っている。それは十中八九、女神に会い復讐を果たすため。
つまり俺たちが祈りを捧げれば、……いや、おとぎ話と同じにするならこうだ。絶滅の危機に瀕している残された全人類が祈りを捧げれば、それを見かねた女神が助けに現れる、と言う事になる。
しかしそんな嘘みたいな奇跡が本当に起こるのか?
「我とした事が、少々語りすぎたようだな」
一方的に会話を中断した男は、暗黒色に輝いている腕をスッと払った。すると暗黒色に輝いていた腕が元の美しき白肌に戻る。
そして男は目線までその腕を掲げると、肘から先が白銀色に輝き始める。そして光の球を生み出した。手の平上に人の頭程の光の塊が生まれたのだ。
そしてよく見れば、その光球は細かな光の糸で構成されているようで、その一本一本が高速で動いているため、光の繭のようにも見える。そしてその光球は次第に明るさを強めていくと、それに伴い質量も増していく。
そして我に返る。
こんな時だと言うのに、また見とれてしまっていたのか。
冷や汗がダラダラと頬を伝う。
あの光球の感じは、先程男が磔巨人の瞳に巨大な杭を打ち込んだ攻撃のように、とてつもなく危険で嫌な予感しかしないというのに。




