砂漠と旅人たち
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フード越しに空を見上げると、お天道様が空いっぱいに輝いていた。
俺たち四人は、大陸に唯一ある砂漠地帯、西ザザード砂漠を北上していた。目の前の砂で出来た丘を登り切ると、すぐさまその丘を下りまた次の砂丘を登っていく。
昨日の夕刻、陽が落ちるのを見計らって野営地を出発をしたのだが、既にこの有様だ。
ジリジリとした陽射しが、身体を覆う外套を通り抜け、肌をチリチリと焼いて行く。
無風状態であるが、ひとたび風が出てしまうと砂嵐となり砂で構成された地形は姿を変え、また目すら開けられなくなり停止を余儀なくされるため、この場所をよく知る旅人は風を欲しない 。
俺は渇きを癒すため水筒を手に取ると、口に水を含ませたのち喉へと流し込む。
あぁ、日陰が恋しい。
俺たち特務部隊は、主に北西方面で起こっている街規模の失踪事件の調査に向かうため、現在光輝王の竜が活動休止の期間に突入した可能性が高いと言う理由の一押しで、最短ルートであるこの砂漠地帯の一部を縦断する事になった。
しかしこいつら、ほんとタフだな。三人が三人女性で、しかもドリルとベルに至ってはまだ十代らしいじゃねえか。
「お前ら、本当に女なのか? 」
疑問を口に出すと、先頭を行くサクが振り返り目を細めた。
「ジダン、それは貶してるの? 褒めてるの? どっち? 」
「もちろん褒めのほうだ、決まってるだろ? それよりサク、俺は曲がりなりにもお前さんより15も歳上だ。しかもこの部隊のお守りを任せられている。所謂上官だ、呼び捨てはやめろ、『さん』をつけろ」
「えー面倒い、そここだわるとこ? 肝っ玉小さいの? 馬鹿なの? 死んじゃうの? 」
こいつはサク=ラジィーマイヤー。あのメグミ=アスロードの再来と恐れられ、巷では美少女天才魔法使いと呼ばれている二十そこらの娘だ。ショートソードを携帯しているが、攻撃手段はもっぱら魔法だと言う。この世の中、魔法だけで戦える人間なんてそうそういない。恐らく何か強力な固有魔法か戦い方を会得しているのではと思うが、中々口を割らない。まぁ手の内をポンポンと明かす奴もそうはいないがな。
何にせよ、話し方は馬鹿っぽいところがあるが、頭の回転が早くセンスのある奴だと思う。
「サク、頭がはげているナイスミドルのおじさんなんですから、せめて『さん』は付けてあげましょう。『さん』の前に来る呼称は、適当でいいですから」
「うぉい、ベル! 呼び方が適当でイーって奴はまだ聞き流せるが、ハゲとはなんだ! 俺はハゲてねーからな! 薄いんだよ、セーフ、セーフなんだよ! 」
「まだでしょ? 」
「うんにゃ、二十代からほとんど進行してねぇから、ずっとこのままだ! 」
「おじさん、現実をきちんと見ましょう。時の流れは儚いから、美しいものなのです」
わざわざ自身の黒髪を抜いてパラパラと地面へまくこいつは、キュベル=ジークオン。なんとあの解除魔法の使い手らしく、聞けば爆裂魔法が得意なんだそうだ。あとふとした時に醸し出している雰囲気で、かなりの使い手である事が伝わってくる。
まぁ、いつもフードにマントと素肌を見せないスタイルだが、素顔はべっぴん。切れ長の瞳に背も高いほうだから、いわゆるクールビューティーって奴だ。
サクとベルが目を細め、日除けとして被っているフードの中に隠された俺の頭頂部を見据える中、メンバー最後の一人、ドリルがこちらに顔を覗かせる。
「ジダン様、ボクはこれからもそのままだと、信じています! 」
「お前はいい子だドリル、困った時は回復してやるからな」
「あっ、ありがとうございます! 」
「そうだ、高い高いをしてやろうか? 」
「それは……やめて下さい」
そう言うとスッと俺から距離を取るドリル。
うおっほん、この素直で前向きな女の子の名はドリルと言う。本名は『ドの町のリル』と言う可愛らしい物を持つのだが、よりにもよって血の繋がらない兄から『ドリル』なんて恥ずかしい名を付けられてしまっている。この子は純粋だからその名前に対して何も感じていないようだが、絶対そいつにハメられてるぞ! おじさん、その義理の兄とやらに会ったら、ちょいと締めてやろうと思っちょります。
そういえばサク曰く、ドリルの潜在能力は規格外らしい。なんでも灼熱赤竜を討伐する際、魔竜の怨念のような物がドリルに降りかかったたらしい。それは並の人間なら心身ともを焼き尽くす強力な物であるそうなんだが、彼女はそれを身に受けても生きていた。しかしそんな彼女でも心身にかかる負担は相当な物だったらしく、サクが見た時にはかなり身体を蝕まれていたらしい。そこで見ていられなかったサクが、アドバイスと言うか少し手を加える事に。
ようは魔法とは気の持ちような部分が大きいらしく、冷たい物を熱いと思い込み触れば火傷をするように、熱いけど熱くないと思い込めば熱くなくなるそうだ。それを利用して、まずはドリルには灼熱赤竜が力を貸してくれていると嘘を教え、あとデタラメな魔法を唱えるとその力が解放されると教えたんだそうだ。するとドリルはそれだけで持ち堪え、レート王国の温泉で完全復活を果たしたそうだ。
その事に関して、サクはまさか思い込みだけで持ち堪えるなんてあり得ない、非常識だ、と声を大にして言っていた。
まあ魔法が気の持ちようって事は俺もなんと無しに理解はしている。なんせ俺は、戦闘中でも回復が行えるセルフヒーラーだからな。
砂を踏みしめ砂丘を越えると、サボテングローブの木が遠目に見えるのを確認する。
サボテングローブの木は、熱に強く砂漠地帯と平野の境目付近によく見られる巨大な木で、小さな針を沢山つけた樹木の中に多くの水分を溜め込んでおり、旅人の喉を潤すのに一役買っている。
そしてそのサボテングローブの木達の向こう側に、街を取り囲む白壁が見えていた。
もう少しで街だ。
女の子達に負けてられないからな、頑張るか。
その後張り切って先頭を歩こうとすると、静かにサクとの先頭争いが始まり、そこにベルが加わった事から街までの競争、デッドヒートが繰り広げられる事となってしまった。




