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ドナの廃坑その後、上

 ◆ ◆ ◆



 顔に何かが付いたところを、無意識に手で取ろうとしたところで目が覚めた。そこを触った指先を見れば、ネバネバとした液体が染み込んだ薄茶けた糸のような物が絡みついており、触った顔はもちろん身体中、至る所にその何かが付いてしまっているようだ。

 私達は複合生物キメラ撃破後、ネゴットが言う秘密の抜け道を通って脱出を試みたのだが、なんとその道とはワームの巣穴であった。蜘蛛の巣みたいに天井や壁、場所によっては通せんぼをするかのように通路全体に張り巡らされてたりもしているその通路は、時折その謎液体も垂れてくる始末。

 この糸が何から出てきた物なのか想像したくないが、不快指数満点の脱出口である事は間違いなかった。


 しかも通路は高い場所でも首を曲げないと通れない、基本腰の高さほどしかない道のため、四つん這いで進む私達の移動速度はドワ二匹以外極めて遅い。ちなみに怪我人である私は敷物に寝かされた状態で引かれているのだが、首を上げて足下、来た道を見ると無数のワームがグネグネと追って来ているのが度々見えた。

 口をグワッと開き牙を剥くその光景に総毛立つ。これはもう、どこぞのホラー物語である。

 殿しんがりは血に飢えたガナベリアとアルアル娘が務めていたが、狭い中寝転がりながら剣を振り回す二人によって間近で乱反射を繰り返す刃達。

 あれはもう危ないなんて物じゃなかった。刃が頭上を掠めた時にはほんと生きた心地がしなかった。

 そして狭いワーム地獄を抜けるとドナの廃坑とは別の洞窟に出たのだが……、そこをたまたま通りかかった、犬の頭を持ち二足歩行で武器を扱う一頭の『ンヤダク』と鉢合わせをした。その犬コロと睨み合ったのも束の間、洞窟内で発したンヤダクの遠吠えを皮切りにワラワラと四方の通路から姿を現わすンヤダクの群れ。それらを蹴散らしながらなんとか地上に出た私達は、そこでやっと一息をついた。時間にして丸一日近く潜っていたのではなかろうか?


「地上までは追って来ないみたいだな」


 うんざりした様子で呟くガオウ。それよりーー。


「ここはどこなの? 」


 高い木々に生い茂る苔に蔦、あたり一面緑に包まれていた。

 視線をネゴットに向けるが、このドワ、気まずそうに視線を逸らしやがった。マジですか!?

 まぁ太陽見てれば大体の方角がわかるから迷う事は無いでしょうけど。

 そこで疲れた表情の私に声をかけたのはガオウ。


「まぁなんだ、これで追っ手の心配はしなくて良いんじゃないのか? 」


 確かにあの複雑怪奇なワーム地獄は、容易く抜けられるものでは無いだろうし、ネゴットが言うには進む道が違えば別の洞窟に出るそうである。しかも大当たりの道を進むと、マザーワームが居座る巨大な空間に出てしまうそうだし。

 そんな場所に広がるであろう光景、想像もしたくない。


「まぁ、上手くまけたと言っても、念のためこれからも用心はしておいたほうが良いだろうがな」


 ドヤ顔で言うMキラー。

 そんな事はいちいち言わなくてもわかるっつーの。いや、ネゴットがいた! あと私、疲れが溜まっているせいで少しイライラしやすくなっているようである。深呼吸、深呼吸。

 そこでMキラーの隣に変異種が肩を並べた。


「ロギアム、そういえば訛りが消えて……話しかた変わったよな? 」

「ふっふっ、俺は決意をしたのだ、今年の冬こそは彼女と過ごすんだと! 」


 ってあんた。


「それ以前に直さないといけない箇所だらけでしょうが! まずは女性との接し方を考えなさい! 」

「あと変態ファッションもネ」


 そこでMキラーは動きをピタリと止めると、俯き掠れ声で呟く。


「あれ? もしかしてオレ、……今モテてる? 」


 そんな戯言にネゴットが腹の底から声を絞り出して続く。


「モテモテじゃこの色男、羨まし~の~! 」


 そうしてネゴットとMキラーが大爆笑を始めた。


「オマエ等の頭の中身、腐ってるだろ?」


 しかしそのガナベリアの皮肉は、笑い声でかき消されてしまった。

 Mキラーはその後、ひとしきり笑い声を上げると落ち着きを取り戻したようで真顔に戻る。


「じゃ、装備品の修理もあるしそろそろ出発するか、短い間だったが楽しかったぜ」


 続き変異種が一歩前へと出る。


「オレ達も行くか、ネゴットの顔も見飽きたしな」

「みんな、また会う日までネ」


 こうしてMキラーと変異種とその連れの小娘二人は緑の中に消えて行った。

 それじゃ、私達も戻りますか。

 とそこで不意にガナベリアがネゴットに話しかける。


「ところでお前は、これからどうするんだ? 」

「そうじゃの~」


 そこでネゴットは顎髭に右手を当て、唸りを上げ、そしてひたすら上げ続ける。

 それに見かねたガオウがネゴットに話しかける。


「よかったらウチに来ないか? 借金は堅実にコツコツ働いて返してもイーことだしな」


 なっ、突然なにを言い出してるの!?


「おぉすまんの~、ではお言葉に甘えてこれから世話になるぞぃ」


 このドワ、遠慮って言葉を知らないの!? しかも即答って。


「そういう事なら、これ以上利子がつかないよう金は代わりに払っといてやるよ。これからは私に直で返済だ、給料日はバレヘルに回収にいくから逃げんなよ! 」


 そんなこんなでそれから3日が過ぎた。

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