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勇者の所業、上

 ◆ ◆ ◆



 宿屋の一室。

 つい今しがた、水晶からの連絡が途絶えたところです。

 それと同時に神妙な面持ちを崩すと、一人静かにほくそ笑みます。

 やってしまいましたね。


 星の魔法石から得た知識で進められている研究の一つ、人体の魔獣化計画。子供でしか適合者が出ないその力を、最終段階の調整をとドナの廃坑でデータ収集をしていたというのに、観測者不在で気付いた時には誰が実験体を倒したのかさえわからない始末。

 そして一族に討伐者の捜索依頼が回って来ましたが、その倒した者は裏に何かがあるのに感ずいたようで痕跡を一切残しておらず、未だ手掛かりすら掴めない状態となっています。

 鑑識魔法の結果、転移魔法は使われていないとの事ですが、ーーどんな手品を使ったのでしょうか?

 それよりこれは、実験を取り仕切るジャナスタインの大失態に留まらず、奴の親である師団長ドルフィーネにも責任問題が伸びる事でしょう。


 武器の類いを身に付けコートを羽織ると、フードを目深に被り顔を隠します。そして部屋から出た私は一階へ降り受付に会釈をして宿を後にすると、眼前を行き交う人々の流れの一部に加わり少し早目に集合場所方面へと歩き出します。


 今からお仕事であります。

 そこで会話を楽しんでいる若い女性達とすれ違った際に、不意にふ〜っと盛大にため息が口から出てきてしまいました。

 出来ればあちら側で、能天気に過ごす日々を体験してみたかった。

 そこで再度ため息が出てしまいます。

 本当になんて不幸なのでしょう。まさか一族が言う呪いが、この身に降りかかる日が来るだなんて。

 いや、本音を言いましょう。いつかはこんな日が来るのではとは思っていましたが、こんなに早い段階で順番が回って来るとは本当に想定外でした。


 私は物心付いた時から、早く一族の束縛から解放されたくてそれなりに頑張りました。そして四年前、歴代の最年少記録で暗殺に関する修行を全行程終わらせ、やっと身分を隠して街で暮らせる! ……ようになるはずだったのですが、この呪いが我が身に降りかかってきたがために、その儚い夢が叶う事はありませんでした。

 そして泣きっ面に蜂、と言うことで今年に入り、なんと特務部隊入りが決まってしまいました。よって表と裏の顔で忙しい私には、プライベートなんてものは一切なく……。

 これも四年前にカザンが同胞を沢山、呪いが舞い降りる候補者達を消し去ってしまった事が大きな要因となっているはずです。

 ただ聞くところによると、英雄の墓所に入れられた亡骸達が動き出しているそうなので、これは八つ当たりには良い機会です。あの根暗で常識知らずのミザリーがやったようバッキバキに、……いやまた復活なんてされてもなんですので、今度は動き出してもプルプル震えるだけの肉塊に変えてあげましょうか。


 しかし必要な時にだけ召集がかかるなんて特務部隊、本当いい加減な場所ですね。

 そうそう特務部隊と言えばあのドリルって子、私と違って綺麗な透き通った魔力を持つ子であります。どんな生活を送ればあんなに綺麗な魔力になるのでしょうか? 彼女はきっと苦労なんて言葉さえ知らず今までのうのうと生きてきたのでしょう。


 ふふふっ。

 しかしそんな澄みきったあの純粋な魔力を、私色に汚してみたい願望が強くあります。

 ……そうですね、私の眼の前ではふしだらでいけない、私なしでは生きてはいけない駄目な子に仕上げてみましょうか?

 あぁ、いったいどんな声で鳴くのか、その時が訪れるのが今から楽しみですね。

 ふふっ、昔も今も楽しみは自分で見つけないと、こんな残酷な運命の中ではまともな神経ではやっていけません。


 ん?

 なんか不快な視線を感じてるとは思っていたのですけど、後ろから手が伸び私の肩を掴もうとしています。


「おい兄ちゃん、ズカズカと人様の前を通りやがって謝りなしか? 」


 掴まれた方へ振り向くと、無精髭を生やした傭兵風の中年が、一生懸命に臭い息をこちらへ吐きかけています。


「真昼間からフードなんかかぶりやがって、薄気味悪い野郎だな。とにかく面かせや」


 そう言うと私の腕を引っ張り路地裏へと進んで行きます。そして私と男の後には、同じく傭兵風の男が三人ついて来ています。ただの野次馬とかではなくて、十中八九この男の仲間なんでしょう。群れると強気になる、クズ達ですね。

 そして人通りが疎らな路地で、私を中心に男達が囲むように陣取りました。


「なんだ? 笑ってるのか? 」


 そして私の正面に立つ先程の男が訝しげな顔で私の表情を見ようとしています。

 いけません、ドリルの事を考えて興奮していたのか、知らず知らずに笑い声が溢れてしまっていたようです。


 まぁいいでしょう。

 久々に機嫌が良いので適当にあしらわずに、この男に最大の恐怖を与えてからその後きちんと殺してあげようとしましょうか。ーーそのためにも、上げてから落とすとしましょう。


 無造作にフードをめくると、肩まで伸ばしてある黒髪と共に私の素顔を外気にさらします。


「おっ、こいつ女なのか? ……しかも上玉だぞ! 」


 男の言葉を受け、周りの男達がどよめき始めます。しかし次の瞬間、男達が一斉に口を閉ざしました。


 私が世界を展開したために。

 呪われた、足を踏み入れる事をオススメしない、狂気の世界を。

 そして彼等の目には映り込んでいる事でしょう、同じ風景なのに遠くに見えていた行き交う人々が消え去り、代わりに仄暗くも虫の音さえ聞こえない静かな世界に変わってしまっている事に。肌で感じている事でしょう、冷水がひたひたと垂れるような冷えきった空気が、すでに辺りを包み込んでいる事に。

 その今までいた世界とは微妙に異なる、しかし全くの異質な光景を目の当たりにしたため、四人が四人固まってしまっています。

 その表情は可笑しくもありますが、……面白くないですね。


次話はあらかた出来上がっているのですが、結構残酷描写過多に仕上がりつつあるので、そう言うのが苦手な人は読み飛ばして下さい。

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