歪む少年
少年は怯えた様子で声すら出せないようだ。そんな彼に、ガオウと私は優しく声をかける。
「ボウズ、無事か? 」
「私達が来たからにはもう大丈夫よ」
私は歩を進めさらに少年に近づいて行こうとしたのだがーー。
「待て! 」
Mキラーが声を張り上げた!
そして私の襟首を掴んで後方へ引っ張ると私と少年の間に体を入れ剣を構える。
「どうしたんだ? 」
ガオウはそんなMキラーに問い掛けたのだったが、口を開いたのは少年のほうであった。
「へぇ~、よく分かったね」
そこである事に気付き息をのむ。少年が短刀を持っていた事に、その生えた鱗に覆われた尻尾で。
「最近訪問者が減ってお腹すいてたんだ。だから手っ取り早くゴハンにしたかったんだけど、……めんどくさいな」
何を言っているの?
食べる?
この私達を?
「ヒャハハハハッ、驚きのあまり固まってやんの。だから俺は、お前等みたいな金目当てのバカや偽善者達を倒すためにここにいるんだよ! 残念ながら、お前らと違って俺は選ばれた人間なんだよ! 」
興奮気味の少年の背後で、長い尻尾がウネウネと動いている。
「お前が選ばれた人間だと? 」
「……おい、変態野郎。なんだよその質問? 」
「言葉の通りだが? 」
Mキラーの言葉に、少年の顔が怒りの色に染まる。
「俺は適合者なんだよ。他の奴らと違っておじさんがくれた力に耐えられる、特別な人間なんだよ! 」
そこで怒りの表情が崩れると、いやらしい笑みを浮かべ始める。
「ククッ、歴代の英雄達と肩を並べる力を持つオレが、悪い魔女達を倒して証明してやるんだ。あ、そういやアンタ等はここで死ぬから確認しようがないか」
そう言うとケタケタ笑いだす。
「ねぇ、おじさんとやらは何者なの? 」
私の問いに、饒舌であった少年は口を閉ざした。
「もしかして、この廃坑にいたりするの? 」
続けて問うと、ふわぁぁ〜と欠伸で返されてしまう。
「質問に答えるの飽きた、と言う事であんたらとはお別れだ。最後に選ばれし者の圧倒的な力ってヤツを、たっぷり見せてやるぜ!」
そう言うと少年は呪文を唱え出す。
このスペルは召喚魔法っぽいけど。
とそこで、咄嗟にMキラーが少年に向かって駆け始めた!
姿勢を低くし、地を這うようにしての疾走!
そして一瞬にして少年の目の前へ。
少年はギョッとしながらも尻尾を動かすと、盾のように身体の前面に出し自身を守ろうとする。がMキラーの渾身の一撃で尻尾の半分から先を失ってしまう。
尻尾の先から赤い血がビュビュッと上がり、少年は苦痛で顔を歪める。
がその直後に呪文を完成させた。
すると少年の足元に現れる三つの赤黒い影。
それらが這い上がるようにして少年の姿を一瞬にして覆い尽くすと、赤黒く染まった少年のシルエットが波打つように歪み始める。
そこへMキラーが構わず剣を振るうが、笑みの形にパックリと開いた少年の口の前には、少年の変異を始めていた巨大な赤黒い腕が現れ阻まれてしまう。
「仕留め損ねたか」
斬撃を止められたMキラーがぼやきながら距離を取るためバックステップをする中、赤黒い少年の姿が本格的に変貌を始めた。




