イヤな予感
「り、理由はともあれネゴさんの言うとおりだ。ここで争ってもまったくの無意味だぜ」
ガナベリアの胸を見ながら諭すガオウに、説得力なんてものは勿論無い。
「そうだ頭を冷やせよ、俺達はプロなんだ! 不必要な戦闘を呼び込むのは恥かしい事だぞ! 」
説得するゴルムルの影に隠れ、アルアル娘がアッカンベーをしている。
それを見たガナベリアが誰にも聞こえない小さな声で囁く。
「あの小娘、……ぶっ殺すリストに追加だ」
ふぅ〜さてと、これからどう進むかなんだけど。
目の前には三つに分岐した道が続く。
左は多くの光苔が自生しており十分な明るさが確保されているが、足元にも生えているので滑らないように気をつけなければならないだろう。
真ん中は特段変わった所は見当たらないが、三つの中で一番光苔が少ない。右の道は途中から結構湿っており、見たことも無い昆虫が沢山壁に張り付いているのが見える。右は何が何でも絶対に選んでは駄目だ。
「じゃ、俺達は真ん中の道を行かさせて貰うぜ! 」
どこかキザな台詞を吐くと、変異種達が真ん中の道を進んで行く。
「俺達はどうする? 」
「そうじゃの〜」
「二手に別れるよ、アイツ等には絶対勝つ。真ん中なら、あいつらを殺す! 」
それは規約違反だけど、やっちゃって良し!
「じゃ私とガオウは左を行くから反対側をよろしく。あと遭遇したときは水晶で連絡をしましょう」
「ふははは、何でもいいから早く出てこい、血祭りにあげてやるよ」
完全に目が逝っているガナベリア。その隣でネゴットが巨大な戦斧を真上に掲げた。
「では、いくぞぃ! 」
こうして私達は、多難続きの廃坑探索を再開させるのであった。
◆ ◆ ◆
突然壁から飛び出してきた無数の鋭く長い針。勢いに押されながらもゴルムルはその手に握る大剣でそれらを受け止めて行く。そして針は暫くすると壁の中へと戻っていった。
「古典的な罠だな」
「そんな古典的な罠に引っかかるゴルっちはダメダメアルね」
「うっさい。……それよりこの賞金首騒動、やっぱりイヤな予感がするな」
「話題を変えたいって正直に白状するね」
「……変えたい」
「素直でいいね。ちなみにイヤな予感ってどういう事ね? 」
ゴルムルは一呼吸置くと、表情を真剣なものに変えた。
「情報に尾ひれがつくことは良くあることなんだが、今回の件みたいに最初の頃と今とでまったく情報が変わる事は珍しいんだ。もしかしたら犯人はすでに、死んでる可能性もある」
「廃坑にいた強力な魔物にやられたとかね? 」
「いや、仮に昔から廃坑にヌシと呼ばれる怪物が存在している、もしくは最近流れ着いたとかなら町で少しは噂になっていてもおかしくない。驚いて逃げかえった賞金稼ぎの話も聞かないしな」
その時、口に鋭い牙を並べた岩肌と同色で腰の高さ程あるワームが、岩の物陰から飛びかかって来た。
それを左腰の帯に剣を二本挿している少女が、瞬時に二本ともを抜刀。
そして身体を高速横回転!
少女がその動きを止め流れの中で剣を鞘に戻すと、細切れとなってしまったワームがベチャベチャと音を立て地面に落ちていく。
「なんにしてもその強敵をサクッと倒せばオッケーね」
「お前は相変わらずマイペースだな」
「私からマイペースを奪ったら、私が私で無くなるね」
「そりゃそうだな」
そう言うとゴルムルは不気味な微笑みを見せ、アンは瞳を閉じると優しい顔で頷いた。




