変わる世界
「シグナ、根を張り出したようだ」
言われて辺りを注視する。すると黒くぬめった蛇のようなものが物陰からちらほら見え出す。
それらは時間と共に数を増し、あるものは色を変え壁に溶け込み、あるものは一箇所に集まり積み重なっていく。
そして辺りの風景が変わりだす。蛇が溶け込んだ壁が、この世界の中でも異質な淡い黄色、水色、ピンク色などのカラフルな物へと変わって行き、また一箇所に集まったもの達は、腰の辺りぐらいの背丈がある動物のヌイグルミとして次々と形成されて行った。
それ等はフラフラと徘徊を始めると、時折意味もなく笑い声を上げた。
因みにヌイグルミ達は所々赤黒く汚れているのがデフォルトで、前歯が飛び出しているものがいたり、片方の目がギョロリと人のそれであったりと薄気味が悪い。
またカラフルに変わった壁や石畳も所々赤黒く汚れている。
そしてヌイグルミ達は這っている蛇のようなものを無造作に掴む。するとそれが鋭い一本の槍へと変わった。
「そろそろ移動をするぞ」
カザンのその提案、しかしシグナは言葉を詰まらせ、思わず視線を逸らしてしまう。
シグナは一度このように変化した場所で戦った事があるのだが、その時に悪い癖が出てしまい痛い目に遭っていた。
それからあの化け物が場所を別なものに変化させ始めたら、逃げの一手で一度離れるようにしてきた。この変化した場所は結構広いが、何処までも続いているわけではないのだ。
何度か見たが、奴自身が根を張った場所から飛び立ち離れると、この色取り取りに変化した場所は全て赤黒く変色し、ぬいぐるみは枯れたようにしぼんで動かなくなる。
また根を張る行為を行った直後の奴は髪の量が極端に減っており、髪がある程度再生するまでこの根を張る攻撃をしてこなくなる。
ただ奴も髪の量が少ない時は、こちらを警戒して上空に逃げてしまい手が出せなくなってしまう。そうなってしまうとこちらは何も出来なくなってしまう。つまり上空へ逃げていない今が攻撃のチャンスなのである。
奴には借りがある。一泡ふかせてやりたい。
「カザン! 」
カザンを見据え呼びかけると、カザンは「しょうがない奴だな」と言ったあと、「ただし深追いは禁物だぞ」と付け加えた。




