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顔合わせ

 どうもガナベリアさんは勘違いをされているようなので、事情を説明します。


「わかったよ、返済期日は今日なんだけど特別に伸ばしてやる。ただし条件が一つあるんだけど、そのおいしそうな話、私も混ぜな」

「借金取りが戦えるんっすか? 」

「なんだい坊や、なんならここで試してみるかい? 」


 挑発に乗ったガナベリアさんが長剣に手を掛け目を細めると、突然彼女との距離感が曖昧になったような、不思議な感覚に襲われます。

 そこでマリモンとガナベリアさんの間にガオウさんが割り込みました。


「マリモン、やめとけ! 借金するヤツは大抵、大酒喰らいの戦士達だ。借金取りはそんな屈強な酔っ払い達から回収して回ってるんだぞ。しかも大抵2人で行動するのにガナベリア嬢は一人ときたもんだ、わざわざ試さなくても実力があるのはわかるよ」


 その言葉を受け、何故かネゴットさんが胸を張ります。


「お主なかなかの観察眼じゃの! そうじゃ、ガナベリアさんはワシ直伝の剣術を使うからなかなかに強いぞぃ」


 小さな背のネゴットさんが、さらに背伸びを付け加え胸を張ります。

 しかしその事実はーー。


「弟子が師匠をっすか! 」


 そう、複雑な関係のようです。


「ホントだよ、うっかりネゴットが」

「ガッハッハ、こういうのを腐れ縁というのじゃ! 」


 ガナベリアさんが頭を抱える中、館内にネゴットさんの笑いが木霊しました。


 その後すぐ、私は水晶を使い弓部隊で空いてる方に来てもらおうと代表してミケさんに連絡をしたのですが、この場に来たのは珍しくミケさん一人のようです。


「ミケさん、他の方々はどうされたのですか? 」

「え~と、それがついさっきまで蜘蛛とトロがいたんですけど、ドリルが遊びに来たらリベンジとか言いながら湖の方へ行っちゃいまして」

「そうでしたか。いえ実は依頼が入りまして弓部隊からも一人、出来たら手伝って頂きたいのですが、ミケさんはどうです? これが今回の詳細なんですがーー」


 今回の依頼内容を纏めた書類をミケさんに手渡します。


「隊長いつもお疲れ様です。ふむふむ、なるほど。それでえ~と報酬金額がバレヘルに50万Gで……一人100万G! 隊長、これ本当ですか! 」

「えぇ、賞金500万をネゴットさん達と折半して、残りからウチに50万引いた余り200万を、ガオウさんと二人で分ける形にして貰います」


 ミケさんの目が今までになくギラギラと輝いているような気がします。


「それでそのネゴットさんって人とガナベリアさんって人は? 」

「こちらの方々です」



 ◆ ◆ ◆



 ああ、青空が広がるとてもいい天気なのに、なぜこんなに暗い気持ちになっているのであろう。

 私は遠くに見える岩山にいるトカゲの数を数えながら、街道をテクテクと歩いている。


「おいこら、弓使いのねぇちゃん! シャンシャン歩かないと、いつまで経っても着かないだろが? やる気あんのか? 」

「す、すみません」


 ドナの廃坑の犯罪者達を討伐するため、レギザイールから南へ向け旅立つこと丸2日。私達はお昼ご飯と情報収集に立ち寄ったガナの町から離れ、廃坑へ向け移動していた。


「ん、どした? 元気ないな」


 よくも飽きずにチラチラと胸ばかりを見れる変態男のガオウが、意気消沈しかかっている私に気安く話しかけてきた。

 私は仕方なく、それに小声で返す。


「 目つきの悪い偉そうな女にむさいドワーフと旅だなんて、破格の依頼金でなければすぐにでもーー」

「またその事か、依頼主にクセがあるのはいつもの事だろ? そんな事よりなにか新しい情報は手に入ったのか?」


 愚痴を吐き出せず、まだこれっぽっちも鬱憤が解消されていないけど、ガオウのすけべ顔を見てるとなんだか馬鹿らしくなってきたので、ここは折れる事にします。


「そう言えば、さっきの町の宿屋情報なんだけど、昨夜フード姿の男が一人でやってきたそうよ。男は一泊したあと今朝早くに出発したって」

「一人だと! ドナの廃坑が目的地なら腕に自信があるヤツか」


 情報の共有を行っていると、先頭を歩いていたガナベリアが足を緩め横に並んだ。


「酒場での話だが、昔廃坑で働いてたオヤジがフード姿の男に高値で地図を売ったと喜んでたね」

「やはり同業者か、地図持ち込みで出発が朝なら先を越されたかもな」

「ガッハッハ! 心配するでない、ワシがついとるではないか!」


 巨大な戦斧を担いだネゴットも話に加わる。

 しかしどこからそんな自信と元気が湧いて出てくるのか。そんなネゴットにガオウが質問をぶつける。


「ネゴさん、勝算はあるのか? 」

「なあに、廃坑の中は複雑で別れ道や罠やらがたくさんあっての。だから鉱山掘りはそんな奥まで潜っておらんわ。その点ワシは最下層まで何百往復もしておるから目をつむってでも目的地までいける。じゃからすぐ追い抜けるぞぃ」


 そう言うとネゴットは、わざわざ目をつむって手探りしながら歩いてみせる、うざい。

 ……このドワは本当に戦力として数えていいのかしら。


「ミケとやら、大船に乗った気持ちでいいぞぃ」


 ニカっと笑うネゴット、……しまった、思わず心の声が漏れてしまったようだ。ーーけど怒ってない様子。

 どうやらネゴットは、弄られキャラが定着しているようである。


「酒場でずっと騒いでただけだしな! 」


 ガナベリアが頭を叩きながら文句を言ったが、ネゴットは微動だにしない。


「それよりおごるなんてガナベリア嬢もやさしいじゃないか」


 ガオウがついに開き直ったのか、胸をガン見しながら話しかけると、ガナベリアはニヤリと笑みを作り、貸しだよ、貸しっと言った。


「なんと! 」


 ネゴットが驚きの声を上げる。いや普通そうでしょ。

 そこで遠くの岩山に横穴を見つける。横穴には何本も線路が引かれており、その付近には使われていないトロッコやシャベル、ツルハシなどが置かれている。


「みんな、目的地が見えてきたよ〜」

「ミケとやら、あれが見えるとは目が良いの〜」


 私達はこうして廃坑の探索を始めるのであった。

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