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熱気に包まれしゼド1

 最大の光量を放つ月光が、眼前を流れる広大な平原を照らし出している。

 操る二頭のパッカラは、街道を無視してひた走る。


 シグナとクロムはパッカラに跨り、ゼルガルド王国王都へ向け、なだらかな起伏のある平原を疾走していた。

 陽はとうの昔に落ちているが、北西の空が明るい。先程から水晶での通信も途絶えている。

 嫌な予感しかしない。

 不意にクロムが口を開く。


「あの方角にはゼドの町がある」


 シグナ達は何処の街にも寄らず北上していた。勿論国の中央部に位置するゼドの街に立ち寄る予定もない。


「王都は姉上がどうにかするだろう。……シグナ、ゼドへ向かっていいか? 」


 こいつは自国を愛している、そしてなんだかんだで優しすぎる。本来なら大を優先して小は切り捨てるべきなのだろう。しかし目の前の人間を見捨てる事が出来ない。

 お前は完全に王様失格だ。一生王子でいるべきだ。

 だがそんなお前だからこそ、シグナは友人と認め、命を懸けて助ける。


「わかった。それと、……俺はお前に命を預ける。ここからは遠慮なく、命令を出してくれ」

「……わかった」


 馬上のクロムは眉一つ動かさず答えた。

 しかしどうしてこんな事になったのだ?


 俺達はカザンを殺した奴を見つけ出し復讐を果たすため、時にはレギザイール国内にも潜伏して情報収集を行った。そして協力者に出会い、レギザイール軍の将軍ドドラとその子飼いの男、第二師団長ドルフィーネとその周辺の奴等が怪しいところまで掴んでいた。

 念密な計画を練りに練り、それを実行に移すための準備を整えるている途中であったのだが、一変する。


 クロムの水晶に、ローザさんからの連絡が入ったのだ。

 その内容とはゼルガルド王国が宣戦布告を受け、その後すぐに南方の街々が攻撃に曝された事であった。

 またその宣戦布告を行った者は、異世界人イシュルと名乗ったそうだ。

 ローザさんはこちらの心配をしての連絡で、俺達の計画を一時取りやめ身を隠すよう言っていたが、クロムは帰国する事を選んだ。

 自国を守るため。


 ゼドの街近くまで進んで行くと、ちょっとした丘がありパッカラ達も頑張って駆け上がっていく。

 そして丘を越えると、燃え盛る街が目の前に広がった。

 風に乗った熱気がここまで届く中、俺達はパッカラを停止させた。


 至る所から上がる炎、崩れた建物。僅かに見え隠れする逃げ惑う人々よりも、道に倒れて動かない人々の方が明らかに多い。

 外門は閉じており、外敵を寄せ付けないための高く分厚い壁が人々をそこに閉じ込めていた。


「クソが! 」


 クロムが歯軋りをしながら吐き捨てる。そしてパッカラを走らせようとするが、それをシグナが止めた。

 なぜ止める、と言わないばかりに睨みつけてくるクロムだが、シグナの目線を追い釘付けになった。


 高い建物群の間を、同じくらいの大きな影が横切っていたのだ。

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