慧眼せし者
降り続ける連撃の中、それでもこちらの攻撃を割り込ませれるタイミングがないのかを模索していますが、もう少し時間がかかるかもしれませんね。
とその時、一瞬連撃のタイミングが空きました。そして細剣から手を離し、両手に持ち替えた黒の大剣を渾身の力で振り下ろそうとしています。
これは魔力容量が満タンの者が扱える、必殺剣級の攻撃が来そうです。
私はそれに対し、受け流すように盾をミリ単位で動かせるよう神経を研ぎ澄ませます。
そして激突する剣と盾。
黒剣は私を捉える事がなく地面へと突き刺さりました。しかし私の方はその威力に押されてしまい、後方によろめいてしまいます。五分と五分、痛み分けと言ったところでしょうか。
と思ったのも束の間、バーレスの前蹴りが迫ります。それを盾で受け止めますが、そのまま尻餅をついてしまいます。
そこへバーレスは左手で拾った細剣を使い、間髪を入れず風の刃達を飛ばして来ます。
その内の一つが利き足に当たってしまい、甲冑を裂くと同時に私の脚は深く斬り裂かれてしまいます。
そしてなおも止むことのない風の攻撃。
これは傷ついた足を気にする暇はありませんね。盾で出来るだけ全身を覆いながら立ち上がろうとしていると、右手1本で握る黒剣を操り、さらなる追い討ちとして横薙ぎに斬りつけてきました。
それを中腰状態で防いでしまったため、その威力で再度後ろに飛ばされますが、今度は次の攻撃に警戒しつつ盾をしっかりと前に出し瞬時に重心をいつでも変えられるよう、身体をニュートラル状態に戻します。
ーー。
ーーーー。
しかし追撃の攻撃がくることはなく、バーレスはただその場に立ち尽くしているのみでありました。
そして私が疑問に思ったのも一瞬のみで、すぐに理解をしました。
バーレスの右腕が二の腕付近から、黒の大剣を握り締めたまま地面に落ちていたのです。
「即席で引っ付けると、こんなものか」
「貴方は負傷をして、……片腕で戦っていたのですか? 」
バーレスは落ちた腕を無造作に拾うと、切り口に押し当てます。すると微かに指が動き出し、しばらくすると同じく落ちた黒剣を拾い握るまでに回復しました。
「片手ってわけではないが、無いよりはましって奴だ。フッ、これくらいのハンデは必要であろう? 」
私も力の使いすぎで頭痛が段々と酷くなる中、正直に思ったことを述べます。
「そうですね」
するとバーレスが突然大笑いをしだし始めました。
「ハッハッハッ、こんなに心の底から笑ったのは、久々な気がするぞ! 」
日頃から人に馬鹿にされるのに慣れている私ではありますが、目の前で笑われるのはやはり気持ちが良いものではありません。
そんな私からにじみ出る、ムッとした雰囲気を感じ取ったのか、バーレスはあわてて口を挟みます。
「気を悪くしたのなら、それは誤解だ。悪い意味で笑ったのではなく、むしろ逆である。……そうだ! 」
笑うのを止めると、真剣な顔つきへと変えます。
「パラディンよ、特別に俺と同じ存在、慧眼せし者にしてやろうではないか」
「……けいがん、ですか? 」
聞きなれない慧眼と言う言葉に、思わずオウム返しをします。
「そう、慧眼だ」
うーむ、なんの事なのでしょうか?
「……よくわかりませんが、お断りさせて頂きます」
盾を構えたまま、私はきっぱりと答えます。
「そうか、それは仕方ないな。……ならば、無理にでもそうするとしようか」
黒剣の柄の先に細剣の切っ先を押し当てると、なんと細剣をそのまま黒剣へと挿入し、一本の剣にしてしまいました。
「遊びは終わりだ、一瞬で片を付けてやろう」
バーレスから今までで一番の殺気が溢れ始めました。
合体剣を上段に構えた状態で間合いをじわじわと詰めるバーレスに対し、私はその場で盾を構え迎え撃つ姿勢に。
すると後方から声が。
「その攻撃は、盾で防ぎきれるものではない! 絶対に躱すのだ! 」
声の主はイールの騎士でありました。という事は、彼はこの攻撃を知っているのですね。
しかも彼は今までの私の防御技術も見た上で、わざわざ発言をされています。よってここは素直に従ったほうが良さそうです。しかしそうなると、防御不能の攻撃が来る、と言う事になります。それは盾が使えず避けるしか出来ないと言う事。
私にとってはかなり厄介な攻撃ですね。
その時、近くにいた異形の者が、なんの前触れもなくその場に崩れ落ち動かなくなりました。それを皮切りにドンドンと異形の者達が倒れていき、依然として立つ者は黒騎士バーレス、唯一人となっていました。




