いえいえあれは、布男!
空飛ぶ騎士の引き摺る足に、黒布が差し込まれ補強されていく。
「蜘蛛、お願い! 」
「らじゃー」
蜘蛛は背中の矢筒から二本引き抜くと、その内の一本を弓の弦に掛け、放つ瞬間に魔弾も織り交ぜ発射させる。そしてすぐさま残りの一本を番えると、同じようにして矢の雨を空飛ぶ騎士へと降り注がせ始める。そのため空飛ぶ騎士は、高速移動を始めるが一定の距離からこちらへ近づけないでいる。
よし、今のうちに確認と、より結束を固めるために意思の疎通を!
「みんな、相手の動きが早い以上、これまで通りお互い離れすぎず、引き付けて戦うわよ。それと蜘蛛、これからも随時弾幕お願い」
蜘蛛は二種の矢を同時に放ち続けながらコクリと頷く。
「トロは自分の判断でイーから、引き続き連携した攻撃を意識して、あいつにそれを当てちゃって! 」
「任せてミケ姉! 」
それじゃそろそろいきますか! あいつは早くて捉えにくいけど、トロの攻撃なら一気に片を付けられる可能性が高い。よってこの戦い、トロの攻撃を如何にして当てるかが鍵となってくる。
隣で矢を放ち続ける蜘蛛は、無表情の中に疲労の色を覗かせていく。
「蜘蛛、ありがと」
「……疲れた」
蜘蛛の攻撃が止むと同時に、空飛ぶ騎士が黒布を棚引かせながら距離をあっという間に詰めてき出す。
「まだ、まだ引きつけて、――今よ! 」
先程より更に近い距離まで引きつけ合図を出すと、蜘蛛と一緒になって一斉に矢を放った。
トップスピードに達していた空飛ぶ騎士は、また大きく右へ左へと雑な動きでかわして行くが……。
蜘蛛が放った一本が目前で軌道を変化させた。そして黒布の一部を捉えた魔弾が、そのまま地面に突き刺さる事により縫い付けた。
おおっと、やるじゃない蜘蛛!
そこに私が矢を放つ。
動きを制限された空飛ぶ騎士はそれを弾くと、縫い付けられている魔弾を引き抜くが、蜘蛛から放たれた次弾が別の箇所を地面に縫いつけた。
「……逃がさない」
蜘蛛の朱色の弓に、更に四本の魔弾がズラリと並ぶ。
そこへドリルが襲い掛かった。掛け声と共に繰り出される連続攻撃に、空飛ぶ騎士は黒布を前面に広げ防戦一方。
そして激しい接近戦を繰り広げる二人から僅かに擦れた空間を、トロの必殺ショットが切り裂き、そのまま黒布を深々と地面へと固定することに成功する。
空飛ぶ騎士は引き抜こうとするが、トロから放たれた鋼鉄の矢はまったくビクともしない。
蜘蛛の機転にトロも乗っかったようだけど、ナイスだトロ!
続いて曲がりくねる四本の魔弾が、空飛ぶ騎士の黒布を強制的に、内から外へと広げていく。
そのため空飛ぶ騎士の人間部分が晒け出され、そこにドリルの全身の力が乗った右ストレートが顔面に一撃入り、バチィンっと激しい音を辺りに響かせる。
頭を大きく後ろへ反らす空飛ぶ騎士は後方に退くことも出来ず、コーナーに追い詰められた剣闘士のように、ドリルの四肢から生まれる竜巻のような攻撃の全てを体で受け止めていく。
骨を砕くその余り有る威力のため、トロが縫いとめていた矢の部分から黒布はいつしか千切れてしまい、そして後方の道の上を速度が落ちることなく転げまわった挙句、その先の民家の塀を突き破ると姿が見えなくなった。
「いっ、今のは勝負あったでしょ! 」
「はっはい、手ごたえがありました! 」
ドリルは息を切らしながら報告をしてくれる。
「でもネクロマンサーである布、いや空飛ぶ騎士かな? とにかくアレを倒したら、全てのゾンビは死ぬんですよね? 」
「そおだったと思うけど? 」
「それが、まだ動いてるみたいなんですけど」
トロが放った矢が、近くを歩くゾンビの頭を吹き飛ばす。
と言う事はーー。
視線を空飛ぶ騎士が飛び込んだ民家の方へとやってみると、ガチィャッと物音を立ててちょうど瓦礫から起き上がる所であった。
「あちゃ~、あれ食らって動けるとか、いくらなんでもタフすぎでしょ?」
手足からは骨が飛び出し、目玉が飛び出ている頭はありえない方向に倒れている。どう見ても普通ではない。
すると黒布が男の全身を覆うように一瞬で広がったかと思うと、鋭い刃のようにどんどんと肉に食い込んでいき、補強するかのようにその上からギチギチと強く縛りつけていく。そしてついには、首をあるべき方向へと戻し手足も正常な形にしてしまった。
そしてーー。
うえっ! その次に行われた悍ましい光景に、思わず吐き気をもよおす。
鋭く尖った黒布が、嫌な音を立てて男の頭に刺しこまれては、グリグリ動いたり引き抜かれたりしていく。その度に男は普通ではない笑い声を上げ……、そしてはちきれんばかりに高く盛り上がっていく筋肉で男の体が一回りも大きく膨れ上がった。
そして見えている人の部分が右目だけと、ほぼ全身を覆う黒布。こいつはもう、空飛ぶ騎士を改め、布男と言っても過言ではないだろう。




