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空飛ぶ騎士

 建物の入り口まで戻った私達。

 五感を研ぎ澄ますと扉の外には気配が感じられないようだけど、念には念を押したほうが良いに決まっている。


「二人とも行くわよ! 」


 蜘蛛とトロが後方で弓を構える中、私がドアの真ん中を豪快に蹴り開けた!

 バァン、と音を立て観音開きの扉が左右に開く。

 するとすぐ目の前の地面に人が倒れていた、……首がない。

 私も弓を番え警戒しながら外に出ると、辺りは想像を超える状態になっていた。壁を背に預け座り込んでいる者、折り重なるようにして倒れている者達、洗濯物のように塀にぶら下がっている者、上半身と下半身がかろうじて引っ付いている者、そしてそれらの全てに共通している事は、首から上が無い事である。


 恐らくドリルがやったんだろうけど。……っとドリルはどこに?

 全方位から聞こえてくる呻き声。その中に衝突音が混じっている物を耳がキャッチする。その方角とは、ゾンビが押し寄せて来ていたL字の角の先。そのため姿は見えないけど、音から察するにあの角の先でまだ戦闘が続いているようだ。


「二人とも、こっちよ! 」


 一緒になって駆け出す、と幾重にも重なるようにして、鮮血の飛沫が角の方から横殴りに何度も何度も上がる。

 その光景に思わず脚を止め戦闘態勢になると、音がパタリと止まってしまった。

 ーー何が起こった!

 その場で固唾を飲んで注視していると、俯いたドリルが角から姿を現しこちらにフラフラと歩いて来る。

 そしてドリルもこちらに気付いたようで、顔を上げると大きく手を振り出すが、その手は勿論全身が真っ赤に染まっていた。

 トロは心配してか、そんなドリルに小走りで駆け寄る。


「ドリル、生きてる? 」


 肩で息をしていたドリルは、笑顔を作ると口を開く。


「大丈夫です、これは全部返り血なので。皆様も、ご無事でなによりです」


 え〜と、ドリルはこの短時間の間に、押し寄せていたゾンビの大群を、一体残らず返り討ちにしてしまったようであります。ってゆ〜か。


「こっちもかい! 」


 私のツッコミに、困惑の表情を浮かべるドリル。するとトロが小声でドリルに耳打ちをする。


「さっきからミケ姉、おかしいの。気にしない気にしない」


 なんか本当、あんた達と一緒にいたら、私の方が間違っているのかなと思えてきちゃいますよ。

 ……まぁ、取り敢えず。


「顔くらい拭いておきなさい! 」


 まだ少しイライラしている私は、ドリルにハンカチを投げ渡します。

 しかし結局、あの黒布には逃げられちゃったわけか。

 そうなると、一度レギザの援軍と合流したほうが良いかな?

 ……だね、そして水晶借りて、隊長に報告しといた方が良さそう。そう言えばイールの騎士達の戦いの行方も気になるな〜。

 よし、いっちょ上に上がって情報収集しますか。


「…………なにか……来る」


 唐突に口を開いた蜘蛛の言葉に、耳を澄ます。すると夜風にのって、微かに聞こえる不気味な声。

 なんですかこれ!?

 男性の狂気に満ちた不気味な笑い声が、かなりのスピードで近づいてきている。

 次第に大きくなるその声に、みんなの表情からは自然と笑みが消え、各々が一定の距離を取り武器を構えた。


「あはハァはハハあぁはハはハああぁハ」


 空から姿を現したそいつは、レギザイール兵!?

 しかも剣を持つ騎士のようだけど飛んでます。しかも騎士が纏うマントが大きすぎて変だし、……ってもしかして、あのマントって黒布では!?

 空飛ぶ騎士は、笑い声を途切れさす事なく飛行を続けると、勢いそのまま地面へと降り立った。その凄まじい衝撃で、嫌な音と共に脚が曲がり骨が飛び出す。

 なんなのこいつ!? 超やばそうなんだけど。あの胸の階級章から、元はレギザイールの隊長職の人間のようだけど。

 すると跪く空飛ぶ騎士の痛々しい脚に、マントーーいや黒布が纏わり付き出した。そして黒布は、ギュッギュッと強く絞るようにして巻き付くと、包帯のようにしてそこから切り離し、空飛ぶ騎士の背後に戻った。

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